アクティブ vs パッシブ
多忙な医療職こそインデックスで十分な理由
投資信託を選ぶとき、多くの人が一度は迷います。プロが銘柄を選んで市場平均を上回ろうとする「アクティブファンド」と、市場平均そのものを買う「パッシブ(インデックス)ファンド」。販売の現場では前者が「上を目指せる商品」、後者が「平均で満足する商品」として説明されがちです。直感的には、専門家が選ぶアクティブの方が成績が良さそうに思えます。
ところが、10〜20年という長期で実際の数字を並べると、この直感はきれいに裏返ります。この記事は「プロが優秀かどうか」という人物評価をしません。扱うのはコストと確率という、感情の入り込まない算術です。とくに夜勤・当直・オンコールで相場を分析する時間のない医療職にとって、どちらが合理的かを淡々と見ていきます。
長期・コスト後・税後で見ると、大半のアクティブファンドはインデックスに負けています。しかも「過去に勝ったファンド」が次も勝つ確率は低い。だから多忙な医療職は、低コストの全世界株/米国株インデックスを自動積立で淡々と持ち、空いた時間は本業(高時給の臨床)に使う方が、期待値が高いのです。
なぜ「アクティブの合計」は市場平均に勝てないのか
これは景気予想でも相場観でもなく、足し算と引き算の問題です。市場全体は、パッシブ投資家とアクティブ投資家の保有分の合計でできています。パッシブ投資家は定義上、市場平均そのもののリターン(コスト控除前)を受け取ります。すると、市場全体から彼らの取り分を引いた残り——つまりアクティブ投資家全体の取り分——も、平均すれば市場平均と同じになります。
ここに毎年の手数料が乗ります。アクティブファンドは銘柄調査やひんぱんな売買のためにコストが高く、その分だけ投資家の手取りは市場平均より確実に下がります。ノーベル経済学賞受賞者ウィリアム・シャープが1991年の論文「アクティブ運用の算術」で示したのは、この単純な構造です。
アクティブ全体の平均リターン(コスト後)= 市場平均 − 平均コスト。個々のファンドには勝者もいますが、その勝ちは別のアクティブファンドの負けの裏返しにすぎません。そして全員が払う手数料が、勝者の利益を削り、敗者の損を深くします。「平均すれば必ずコスト分だけ負ける」のは算術上の帰結です。
SPIVAのデータ:期間が延びるほど勝率は下がる
この算術は、実データでも裏づけられています。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが毎年公表する「SPIVA」レポートは、アクティブファンドのうち何%がベンチマーク指数に負けたかを期間別に集計したものです。注目すべきは、期間が延びるほど敗北率が上がるという傾向です。
| 対象(米国大型株アクティブ) | 期間 | 指数に負けた割合 |
|---|---|---|
| 単年 | 1年(2024年) | 約65% |
| 長期 | 15年(2010〜2024年) | 約89.5% |
※SPIVA U.S. Year-End 2024 にもとづく概数。最新版・対象期間により変動します。
単年でも65%が指数に負けていますが、15年に延ばすと約9割が負けます。理由は前章の算術にあります。単年なら「運」で指数を上回るファンドが一定数出ますが、年数を重ねるほど運の振れは平均化され、毎年確実に引かれ続けるコストだけが累積していくからです。長い時間は、運を消し、コストを残します。
なお誇張は避けます。日本の大型株ファンドは単年(2024年)で敗北率が約47%と、過半数のアクティブが勝った年もありました。問題は「ある年に勝てるか」ではなく「10年20年勝ち続けられるか」です。長期で見ると、過半数のアクティブが指数を上回り続けたカテゴリはほとんど存在しません。
「勝ってるファンドを選べばいい」が難しい3つの理由
「では過去に指数へ勝ったアクティブを選べばいいのでは」と思うかもしれません。ここに3つの落とし穴があります。
① 勝者の継続性が低い
S&Pダウ・ジョーンズの「Persistence Scorecard(Year-End 2024)」によれば、ある年に成績上位25%だった米国大型株ファンドが、その後も上位25%に残り続けた割合は極めて低く、数年でほぼゼロに近づきます。完全にランダムでも一定割合が残るはずの計算を下回ることすらあります。過去の勝者は、将来の勝者をほとんど保証しないのです。
② 生存者バイアスで「勝ってるファンド」が多く見える
成績の悪いアクティブファンドは、繰上償還や他ファンドへの併合で市場から静かに消えます。すると「いま存在するファンド」だけを見たとき、すでに敗退した負け組が視界から抜け落ち、生き残り組の勝率が実態より高く見えます。SNSで見かける「このファンドは過去5年インデックスに勝っている」という話は、消えていった同種ファンドが見えていない、偏った視界であることが多いのです。
③ 課税口座では差がさらに開く(高所得ほど効く)
アクティブファンドは内部で銘柄を入れ替えるため分配金が出やすく、投資家も乗り換えを繰り返しがちです。課税口座(特定口座)では、利益が確定するたびに20.315%が差し引かれます。ここで効いてくるのが、医療職の所得構造です。勤務医・薬剤師・ベテラン看護師など給与所得の高い層は、本業の課税所得がすでに累進税率の高い帯に乗っていることが多く、これ以上、確定益や分配金で課税所得を上積みしたくない場面が増えます。低コストインデックスを長期保有すれば、含み益は売るまで課税が繰り延べられ、その間も複利が効きます。SPIVAの敗北率は税引前の数字なので、税後で比べればアクティブの不利はさらに広がります。NISA口座内では税差は消えますが、その場合でも手数料の差は残り続けます。
「直近◯年で指数を上回ったファンド」という宣伝文句は、①継続性が低い、②生存者バイアス、③税引前という3つのフィルターを通すと、大きく割り引いて見る必要があります。雰囲気や過去の好成績は、将来の根拠にはなりません。
コスト差は複利でこれだけ効く
投資家が事前に確実にコントロールできるのは、リターンでもαでもなく、手数料(信託報酬)だけです。市場平均は選べません。どのファンドが上振れするかは誰にもわかりません。残るレバーは、引かれることが確定しているコストをどこまで小さくできるか、です。そしてその差は、長い時間で複利的に効きます。
| 信託報酬(年率) | 商品の典型例 | 年5%・30年運用後、コストなしと比べた資産の目減り |
|---|---|---|
| 0.06% | 低コスト全世界株インデックス | 約1.7% |
| 0.10% | 低コスト米国株インデックス | 約2.8% |
| 0.5% | 低コスト寄りのアクティブ | 約13% |
| 1.0% | 一般的なアクティブ投信 | 約25% |
| 1.5% | 高コストなテーマ型 | 約35% |
※名目リターン年5%・30年複利の概算。最終資産を「コストなし」と比較した目減り率の目安です。
年1.0%の手数料は、30年で最終資産の約4分の1を持っていきます。アクティブファンドがこのハンデを埋めて投資家を勝たせるには、コスト前で毎年1%以上、市場を「確実に」上回り続けなければなりません。SPIVAの15年敗北率約89.5%は、それがいかに難しいかを物語っています。ネット証券の低コストインデックスは年0.1%前後、銀行窓口で勧められる投信は年1%以上のことが多い——この差を、まず数字で確認することが出発点です。
医療職にとっての結論:時間は本業に投じる方が期待値が高い
ここまでは投資家一般の話でした。最後に、医療職という働き方の角度を加えます。医療職には、インデックス投資が「向いている」を超えて「最適に近い」と言える事情があります。
① 分析する時間がない:夜勤・当直・オンコールの合間に、企業決算や相場を継続的に追うのは現実的ではありません。インデックスなら分析は不要です。
② 安定収入と積立の相性が良い:毎月決まった給料が入る医療職は、証券口座の自動引き落としと最も相性のよい働き方です。一度設定すれば、夜勤明けでも当直中でも資産が育ちます。
③ 時間の使い道として期待値が高い:投資分析に費やす時間で、当直やスポット勤務を1回入れる、専門資格を取る方が、確実なリターンになりやすい。臨床こそ医療職にとって最も再現性の高い「高時給の運用先」です。
「市場平均を取りこぼさない」ことを低コストで実現し、浮いた時間と気力を本業に回す。これは妥協ではなく、データと算術が支持する合理的な戦略です。具体的な商品を選ぶ段になったら、投資信託の選び方で「全世界株か米国株か」「信託報酬の見方」を、口座についてはNISA口座と特定口座の違いで税の差を確認してください。
これは「アクティブは必ず負ける」という断定ではありません。「投資家が操作できるのはリターンではなくコストであり、コストを最小化する選択が、確率的に最も合理的だ」という話です。とくに分析の時間が取りにくく、税率の高い医療職にとって、その合理性はいっそう際立ちます。
まとめ
- 市場全体の算術上、アクティブの合計は平均でコスト分だけ市場平均に負ける。
- SPIVAでは米国大型株アクティブの15年敗北率は約9割。期間が延びるほど勝率は下がる。
- 「勝者の継続性が低い」「生存者バイアス」「課税口座での税差」の3つで、アクティブ選びはさらに難しくなる。
- 投資家が確実に操作できるのは手数料だけ。年1%の差は30年で資産の約4分の1を分ける。
- 分析時間が取りにくく安定収入があり、税率も高い医療職こそ、低コストインデックス+自動積立が合理的。時間は本業に投じた方が期待値が高い。
出典:William F. Sharpe「The Arithmetic of Active Management」(Financial Analysts Journal, 1991)https://web.stanford.edu/~wfsharpe/art/active/active.htm / S&P Dow Jones Indices「SPIVA U.S. Scorecard Year-End 2024」https://www.spglobal.com/spdji/en/documents/spiva/spiva-us-year-end-2024.pdf / S&P Dow Jones Indices「U.S. Persistence Scorecard Year-End 2024」https://www.spglobal.com/spdji/en/documents/spiva/persistence-scorecard-year-end-2024.pdf / 国税庁「No.1330 上場株式等の配当等に係る源泉徴収」(20.315%)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1330.htm / 金融庁「新しいNISA」https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.html
本記事は一般的な金融知識の解説であり、特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではありません。SPIVA・Persistence Scorecard の数値は S&P Dow Jones Indices 公表の Year-End 2024 版にもとづく概数で、最新版・対象期間により変動します。投資には元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。