柔道整復師・鍼灸師の年収・手取り・働き方
整骨院・鍼灸院の勤務と開業、療養費のリアル
柔道整復師、はり師・きゅう師(鍼灸師)は、いずれも国家資格に裏打ちされた施術の専門職です。整骨院・接骨院や鍼灸院での勤務はもちろん、自分で施術所を開業できるという大きな特徴があり、「資格を取れば独立も狙える」職種として知られています。一方で、「実際の年収はどのくらいか」「開業したらいくら残るのか」は、なかなかイメージしにくいのではないでしょうか。
この記事では、厚生労働省の職業情報提供サイト「jobtag」や賃金構造基本統計調査などの公的データをもとに、勤務時の年収の目安、開業した場合の収入の考え方、そして年収を語るうえで避けて通れない保険(療養費)の適用範囲とその動向を整理します。あわせて、額面から手取りをどう見積もるかも解説します。
先に結論を言うと、この2職種の年収は「資格そのもの」より、勤務か開業か・保険施術か自費施術か・そして集客と経費のコントロールで大きく動きます。専用の賃金統計が乏しい職種でもあるため、ここで示す数字はあくまで「目安レンジ」として読んでください。
柔整師・鍼灸師の年収が「全体の中でどのあたりか」をつかみ、勤務と開業で収入構造がどう違うかを理解すること。そのうえで、額面から手取りを見積もれるようになること。正確な手取りは 手取りシミュレーター で計算できます。
まず「専用の賃金統計が乏しい」ことを知っておく
はじめに正直にお伝えしておきます。柔道整復師や鍼灸師は、看護師・薬剤師のように賃金構造基本統計調査で独立した職種区分が手厚く整備されているわけではありません。そのため、世間で見かける「平均年収◯◯万円」という数字は、関連する区分や厚労省の職業情報、各種求人・調査からの推計・目安であることが多いのです。
さらに、この2職種は自営・フリーランス(開業)の比率が非常に高いという特徴があります。厚労省の職業情報(jobtag)では、はり師・きゅう師の就業形態のうち自営・フリーランスが6割を超えるとされています。開業者の所得は院ごとの経営状況でばらつくため、「平均値」が実態を表しにくい職種でもあります。だからこそ、数字はレンジ(幅)で、断定せずにとらえるのが正しい読み方です。
勤務した場合の年収の目安
整骨院・接骨院や鍼灸院、あるいは整形外科・接骨院併設のクリニックなどに雇用されて働く場合の年収から見ていきます。厚生労働省の職業情報提供サイト「jobtag」によると、柔道整復師・はり師・きゅう師ともに平均年収はおおむね450万円台、求人賃金(月額)は27万円前後が目安とされています(全国・男女計、賃金構造基本統計調査をもとにした数値で調査年により前後)。これは「すでに働いている人」の平均で、求人賃金(初任給水準)を12倍した額とは一致しない点に注意してください。
年代別に見ると、20代は350万円前後からのスタートが目安で、経験を積み、店長・院長(雇われ院長)や管理職に就くにつれて伸びていく、という傾向です。専門学校・大学を卒業して国家試験に合格すれば就ける職種で、これから目指す人は養成課程や国家試験の道のりも押さえておくとよいでしょう。
| 働き方・立場 | 年収の目安レンジ | 特徴 |
|---|---|---|
| 勤務(若手・スタッフ) | 約300〜400万円 | 初任給は月給20〜25万円前後が多い。残業・歩合の有無で差。 |
| 勤務(経験者・主任クラス) | 約400〜500万円 | 指名や売上に応じた手当・歩合が乗るとここに届きやすい。 |
| 勤務(店長・院長=雇われ) | 約450〜600万円 | 役職手当+店舗業績の歩合で上振れ。チェーンで差が大きい。 |
| 開業(自営) | 約300〜1,000万円超 | 幅が極端に広い。経費・集客・保険/自費の比率で手残りが激変。 |
※厚生労働省の職業情報提供サイト「jobtag」・賃金構造基本統計調査をもとにした目安レンジです。専用の統計区分が乏しい職種のため、関連区分や求人水準からの推計を含みます。地域・施設・経験・歩合制度で大きく変わります。
整骨院・鍼灸院は、固定給に加えて売上や指名数に応じた歩合を導入している職場が少なくありません。同じ求人でも、基本給が低めで歩合が大きい設計か、固定給中心かで、年収の伸び方も安定感も変わります。求人を比べるときは「提示額の内訳(固定+歩合)」まで確認しましょう。
開業した場合|手残りは経費と集客で激変する
この2職種の最大の特徴が、自分で施術所を開業できることです。柔道整復師は整骨院・接骨院を、鍼灸師は鍼灸院を開設できます。開業すると、収入は「年収」というより売上から経費を引いた手残り(事業所得)で考えることになります。ここが、勤務とまったく違う点です。
たとえば一人で営む整骨院・鍼灸院のイメージとして、月の売上が70万円、家賃・水道光熱費・材料・広告などの経費が20〜30万円かかると、手元に残るのは月40〜50万円程度、年換算でおおよそ480〜600万円前後という見方ができます。売上が伸びてスタッフを雇えば総額は増えますが、その分人件費という経費も増えます。「売上=収入」ではないのが開業の現実です。あくまで一例で、立地・客数・単価しだいでこれより低くも高くもなります。
整骨院・接骨院・鍼灸院の開業には、物件取得・内装・施術ベッドや機器などで規模に応じてまとまった初期投資がかかります。さらに、保険(療養費)は請求から入金まで数か月かかるのが一般的で、開業直後は手元現金が薄くなりがちです。最低でも数か月分の運転資金を確保しておくことが、開業を続けるうえで欠かせません。開業資金の組み立て方は 開業の資金計画 で具体的に解説しています。
つまり開業の手残りは、(1)集客できているか(売上)、(2)家賃・人件費などの経費を抑えられているか、(3)保険施術と自費施術のバランスの3点でほぼ決まります。年収1,000万円を超える院長がいる一方で、勤務時代より手残りが減るケースもあるのが実情です。独立を「収入アップの手段」とだけ考えるのではなく、経営の数字をコントロールできるかが分かれ目になります。
年収を左右する「保険(療養費)の範囲と動向」
柔整師・鍼灸師の収入を理解するには、保険(療養費)のしくみを避けて通れません。病院の診療報酬とは別に、これらの施術には「療養費」という公的な支払いの枠組みがありますが、対象となる範囲が限定されているからです。
柔道整復師(整骨院・接骨院)の保険適用
柔道整復師の施術で療養費(健康保険)の対象になるのは、骨折・脱臼・打撲・捻挫(いわゆる肉ばなれを含む)といった急性のケガに限られます。骨折・脱臼は応急手当を除き原則として医師の同意が必要です。一方で、原因がはっきりしない慢性的な肩こり・腰痛・筋肉疲労、慰安目的のマッサージ代わりの利用は保険の対象外で、全額自己負担(自費)になります。患者から窓口負担を受け取り、残りを保険者に請求する「受領委任」のしくみが整備されています。
はり師・きゅう師(鍼灸院)の保険適用
鍼灸の療養費は、医師が同意した特定の慢性疾患が対象です。具体的には神経痛・リウマチ・頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症のいわゆる「6疾患」が代表で、健康保険を使い続けるには医師の同意書(再同意は原則6か月ごと)が必要とされています。柔整とは対象疾患が異なり、同じ部位について医療機関で治療を受けている間は保険扱いになりません。
保険適用の範囲が限られるため、近年は自費メニュー(保険外の施術)に力を入れる院が増えています。療養費は数年ごとに料金改定があり(令和6年も改定が実施)、保険だけに依存する経営は不安定になりやすいのが現実です。逆に言えば、自費施術の単価と固定客をつくれるかどうかが、勤務でも開業でも年収の伸びしろを決めます。
手取りの考え方|額面の約8割が目安
ここまでの年収は、いずれも「額面(または売上ベース)」の話です。実際に使えるお金(手取り)は、税金と社会保険料が引かれた後の金額になります。勤務か開業かで、その引かれ方が違う点に注意しましょう。
勤務(給与)の場合は、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・所得税・住民税が給与から天引きされ、手取りは額面のおよそ75〜80%に落ち着きます。「ざっくり8割」と覚えておくと見積もりが速くなります。引かれるお金の中身は 「手取りはなぜ額面の8割なのか」 で1項目ずつ解説しています。
開業(個人事業)の場合は、給与天引きではなく、自分で国民健康保険・国民年金を支払い、確定申告で所得税・住民税・個人事業税を納める形になります。経費を正しく計上すれば課税所得を抑えられますが、社会保険の手厚さ(厚生年金など)は会社員より薄くなる面もあります。「手残り=そのまま使えるお金」ではないことを前提に、税・社会保険の分を見込んでおきましょう。
| 額面年収(勤務の例) | 手取り年収の目安 | 月あたり(賞与込みを12等分) |
|---|---|---|
| 約350万円(若手スタッフ) | 約280〜290万円 | 約23〜24万円 |
| 約450万円(経験者・平均水準) | 約350〜360万円 | 約29〜30万円 |
| 約550万円(店長・院長クラス) | 約425〜435万円 | 約35〜36万円 |
※単身・40歳未満の給与所得者を想定したおおよその目安です。扶養家族がいると控除が増えて手取りは上がります。開業(個人事業)は税・社会保険の計算が異なります。実際は地域・手当構成で変わります。
引かれる税・社会保険を踏まえて、いまの手取りをまず把握しておきましょう → 手取りシミュレーター
国家資格としての位置づけと養成
柔道整復師も、はり師・きゅう師も、国家資格です。資格を取るには、高校卒業後に文部科学大臣または厚生労働大臣が指定した養成施設(専門学校3年以上・大学4年など)で3年以上学び、卒業(見込み)後に国家試験に合格する必要があります。
柔道整復師の国家試験は例年3月上旬、はり師・きゅう師の国家試験は例年2月下旬に実施されます(はり師・きゅう師は別々の試験ですが、両方を同じ養成校で目指せるコースが一般的です)。学費は学校種別で幅がありますが、専門学校で総額数百万円規模が目安です。資格取得後は、一定の実務経験と研修を経て「施術管理者」になることで、開業して受領委任(保険請求)ができる道が開けます。
柔整師・鍼灸師が年収を上げる現実的な方法
夜勤手当のような構造がない職種だからこそ、年収アップにはいくつかの現実的なレバーがあります。
1. 自費施術の単価と固定客をつくる
保険(療養費)の範囲は限られ、料金も国の改定に左右されます。だからこそ、自費メニューの設計と、リピートしてくれる固定客づくりが年収の伸びを左右します。勤務でも、指名や自費売上が評価・歩合に直結する職場では、ここが収入アップの本丸になります。
2. 役職に就く・職場のレンジを上げる
勤務であれば、店長・院長・エリアマネージャーなどの役職に就くと、手当と歩合の両方で年収が上がりやすくなります。チェーンや整形外科併設など、職場によって給与レンジそのものが違うため、レンジの高い職場へ移るのも有効です。職種別の転職サービスの選び方は 転職サイトの選び方 で中立に整理しています。
3. 開業を「数字で」設計する
開業は年収を大きく伸ばせる可能性がある一方、初期投資・経費・入金の遅れという現実があります。家賃・人件費を抑え、集客と自費の比率を高める——この経営の数字を設計できるかどうかで、手残りは大きく変わります。勢いだけでなく、事業計画と運転資金から逆算することが、後悔しない独立のコツです。
提示年収に歩合・残業代が含まれるか/固定給と歩合の内訳/賞与の実績/保険施術と自費施術の比率/(開業なら)初期投資・家賃・想定客数・運転資金。これらをそろえて初めて、勤務先どうし・開業案を正しく比べられます。
まとめ
- 柔整師・鍼灸師は専用の賃金統計が乏しく、年収は「目安レンジ」でとらえるのが正しい読み方。jobtagでは平均年収450万円台が一つの目安。
- 勤務は若手で約300〜400万円、経験者・役職で約450〜600万円が目安。歩合制度の有無で差が出る。
- 開業は手残りが約300〜1,000万円超と幅が極端に広い。経費・集客・保険/自費の比率で激変し、「売上=収入」ではない。
- 保険(療養費)は対象が限定(柔整=骨折・脱臼・打撲・捻挫の急性外傷/鍼灸=医師同意の6疾患)。自費施術の比率が経営を左右する。
- 手取りは勤務で額面の約75〜80%。開業は確定申告で税・社会保険を自分で納める前提で考える。
平均や目安はあくまで出発点です。手取りシミュレーター に自分の数字を入れて、「実際にいくら残るのか」を確かめるところから始めてみてください。
本記事の年収は厚生労働省の職業情報提供サイト「jobtag」・賃金構造基本統計調査および求人・各種調査をもとにした全国の目安レンジで、2026年(令和8年)の税・社会保険制度にもとづく一般的な情報です。柔道整復師・はり師・きゅう師は専用の統計区分が乏しいため、関連区分や求人水準からの推計を含み、断定を避けています。実際の給与・手取り・手残りは勤務先や個々の経営状況で大きく異なり、税・社会保険・療養費の制度は改正される場合があります。本記事は税務・労務・経営の個別助言ではありません。正確な金額や最新の制度は、一次情報(厚生労働省等)・専門家にご確認ください。
出典:厚生労働省「職業情報提供サイト(jobtag)」柔道整復師(https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/173)・はり師・きゅう師(https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/175)
出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html)
出典:厚生労働省「療養費の改定等について」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/01.html)
出典:全国健康保険協会(協会けんぽ)「柔道整復師のかかり方」(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/judo_therapist/index.html)