給与・手取り

医療職の手取りはなぜ額面の8割なのか
給料から引かれるお金をぜんぶ解説

2026年6月4日 更新 / メディカルマネー編集部 / 監修:黒田律(内科医・産業医)

給与明細を見て、「額面はそれなりにあるのに、振り込まれる金額はずいぶん少ない」と感じたことはありませんか。

看護師でも、医師でも、薬剤師でも、技師でも——医療職の給与から引かれるお金のしくみは、基本的に同じです。額面(総支給額)のおよそ75〜80%が手取りになり、残りの2〜3割は、社会保険料と税金として天引きされています。

この記事では、その「消えた2〜3割」が何に使われているのかを、ひとつずつ分解して解説します。しくみがわかれば、手取りを増やすために何ができるのかも見えてきます。

この記事のゴール

給料から引かれる5つの項目を理解し、自分の手取りを「数字で」把握できるようになること。正確な金額は 手取りシミュレーター で計算できます(令和8年分の税制・47都道府県の保険料率対応)。

「額面」と「手取り」は何が違うのか

まず言葉の整理から。

  • 額面(総支給額):基本給+各種手当+夜勤手当・当直手当などをすべて足した、税金が引かれる前の金額。
  • 手取り(差引支給額):額面から社会保険料と税金を引いた、実際に銀行口座に振り込まれる金額。

額面から引かれるのは、大きく分けて5つです。このうち①〜③が「社会保険料」、④〜⑤が「税金」です。

  1. 健康保険料(40歳以上は介護保険料も)
  2. 厚生年金保険料
  3. 雇用保険料
  4. 所得税
  5. 住民税

給料から引かれる5つのお金

① 健康保険料

病気やケガをしたときに、医療費の自己負担が3割で済むのは、健康保険のおかげです。その保険料を、毎月の給料から払っています。

保険料は「標準報酬月額」(給料を区切りのよい等級に当てはめた金額)に料率をかけて計算され、会社と本人が半分ずつ負担します。料率は加入している健康保険によって異なり、協会けんぽの場合は都道府県ごとに約9.4〜10.8%(2025年度)。本人負担はその半分です。多くの病院は独自の「健康保険組合」に入っているため、料率は勤務先によって変わります。

!40歳になると増える

40歳になると、介護保険料(協会けんぽで1.59%、本人はその半分)が上乗せされます。40歳の誕生月から手取りが少し減るのはこのためです。

② 厚生年金保険料

将来の年金のために払うお金です。料率は18.3%で全国一律、これも会社と本人で折半なので、本人負担は9.15%。健康保険と同じく標準報酬月額に対してかかります。

ここで医療職、とくに勤務医のような高収入の人が知っておきたいのが、厚生年金には上限があること。標準報酬月額の上限は65万円なので、月の報酬がそれを超えても、厚生年金保険料はそれ以上は増えません。一方、健康保険は上限がずっと高いため、収入が上がるほど健康保険料の負担感が増していきます。

③ 雇用保険料

失業したときの給付や、育児休業給付などの財源です。料率は低く、2025年度は本人負担0.55%(一般の事業)。賞与にもかかります。金額としては5つの中で一番小さい項目です。

④ 所得税

国に納める税金です。1年間の収入から、給与所得控除(働く人みんなが受けられる経費のようなもの)や、社会保険料、基礎控除、扶養控除などを差し引いた「課税所得」に対して、5%〜45%の累進税率でかかります(復興特別所得税2.1%が上乗せ)。

収入が高いほど税率が上がる仕組みなので、勤務医のように年収が高い人は、所得税の負担が大きくなります。逆に、控除を増やす(後述のiDeCoなど)と、課税所得が減って所得税も軽くなります。

!近年の改正で少し軽くなった

2025年(令和7年)に基礎控除と給与所得控除が引き上げられ、多くの人で所得税が少し軽くなりました。さらに2026年(令和8年)の改正で、基礎控除と給与所得控除の最低保障額がもう一段引き上げられます(基礎控除は所得に応じて最大104万円、給与所得控除の最低保障額は65万円→74万円)。古い情報の計算機を使うと税金を多めに見積もってしまうことがあるので注意してください(本サイトのツールは令和8年分の改正に対応済みです)。

⑤ 住民税

お住まいの自治体に納める税金です。課税所得に対して一律10%(所得割)に、定額の均等割(約5,000円)が加わります。

!新人の「2年目ショック」の正体

住民税は前年の所得をもとに、翌年に課税されるのが特徴。だから新人看護師・研修医の1年目は住民税が引かれず、2年目から「急に手取りが減った」と感じる人が多いのです。これは制度どおりの動きで、間違いではありません。

5つの項目のまとめ

項目使いみち本人負担の目安会社と折半
健康保険料医療費3割負担など約5%前後(料率の半分)
介護保険料(40歳〜)介護保険の財源約0.8%(料率の半分)
厚生年金保険料将来の年金9.15%(上限あり)
雇用保険料失業・育休給付など0.55%
所得税国の税金5〜45%(累進)
住民税自治体の税金約10%+均等割

医療職ならではの3つのポイント

ここからが、一般的な手取りの話とは少し違う、医療職特有の論点です。

夜勤手当・当直手当も、社会保険と税金の対象

「夜勤手当・当直手当は手当だから非課税」と思われがちですが、これは誤解です。夜勤手当も当直手当も、給与の一部として、社会保険料も所得税・住民税もかかります。手当が多い月は、そのぶん引かれるお金も増えます。

通勤手当(交通費)は非課税。でも社会保険には含まれる

一方で、通勤手当は税金がかかりません(公共交通機関の場合は月15万円まで非課税)。ここは夜勤手当との大きな違いです。

!見落としやすい二重の性質

通勤手当は税金はかからないけれど、健康保険料・厚生年金保険料の計算には「報酬」として含まれます。この二重の性質を正しく反映しないと、手取りの計算がずれてしまいます(本サイトのツールはここも分けて計算します)。

「基本給が低くて手当が厚い」構造の落とし穴

医療現場の給与は、基本給を抑えめにして、夜勤手当・当直手当・各種手当を厚くする構造になっていることがよくあります。毎月の手取りは確保できる一方で、見えにくい不利があります。

それは、賞与(ボーナス)や退職金が「基本給」を基準に計算されることが多いこと。つまり、月給の総額が同じでも、基本給が低い職場は、ボーナスや退職金で差がつきやすいのです。

求人を比べるときは、月給の総額だけでなく、基本給そのものの高さと、夜勤・当直手当が「固定でつくのか・回数連動か」を必ず確認することをおすすめします(→ 転職とお金の記事で詳しく)。

年収別・手取り率のざっくり目安

扶養家族の有無などで変わりますが、単身の場合のおおよその手取り率は次のとおりです。年収が上がるほど、累進課税の影響で手取り率は少しずつ下がっていきます。

額面年収手取り率の目安
約350万円約79〜80%
約450万円約78〜79%
約600万円約77〜78%
約800万円約75〜76%
約1,000万円約74〜76%
約1,500万円約67〜70%

※扶養家族がいると控除が増え、手取り率は上がります。あくまで目安です。

▼ 年収が上がるほど手取り率は下がる(単身の目安)

350万円
約79.5%
450万円
約78.5%
600万円
約77.5%
800万円
約75.5%
1,000万円
約75%
1,500万円
約68.5%

※バーの長さは手取り率の目安。社会保険料の上限到達と累進課税により、高年収ほど率は下がります。

手取りシミュレーター基本給・手当・夜勤や当直の回数・賞与・扶養・地域を入れて、あなた自身の手取りを計算。夜勤あり/なしの比較もできます。
計算する →

手取りを増やす3つの方向

しくみがわかったら、打ち手は大きく3つです。

  1. 入りを増やす(職場を見直す):同じ夜勤・当直でも、基本給や手当は職場で差があります。転職前後の手取り比較ツールで、額面ではなく手取りで比べてみてください。
  2. 残りを非課税で育てる(NISA・iDeCo):手取りから少しでも積み立てれば、非課税のメリットが長期で効きます。とくにiDeCoは掛金が全額所得控除になるので、所得税・住民税も軽くなります。積立シミュレーターで効果を確認できます。
  3. 払う税で得をする(ふるさと納税):上限の範囲内なら、自己負担2,000円で返礼品がもらえます。ふるさと納税の上限シミュレーターで、自分の上限額を計算しましょう。

まとめ

  • 医療職の手取りは、額面のおよそ75〜80%。残りは社会保険料と税金。
  • 引かれるのは、健康保険(+介護)・厚生年金・雇用保険・所得税・住民税の5つ。
  • 夜勤手当・当直手当は課税対象、通勤手当は非課税(ただし社会保険には含む)。
  • 基本給が低い職場は、賞与・退職金で差がつきやすい。
  • 自分の手取りは 手取りシミュレーター で正確に計算できる。

額面の数字に一喜一憂するより、「手取りでいくら残るか」「どうすれば増やせるか」を自分の数字で把握することが、医療職のお金の第一歩です。

よくある質問

ボーナス(賞与)からも社会保険料や税金は引かれますか?

はい。賞与からも健康保険(40歳以上は介護保険料を含む)・厚生年金・雇用保険・所得税が引かれます。一方で住民税は賞与から天引きされません(住民税は前年所得をもとに毎月の給与に分けて納めるしくみのため)。社会保険料は、賞与額の千円未満を切り捨てた「標準賞与額」に料率をかけて計算します(健康保険は年度累計573万円、厚生年金は1回150万円が上限の目安)。賞与は住民税が引かれないぶん、月給よりも手取り率はやや高めになる傾向があります。賞与の使い道はボーナスの賢い使い方もどうぞ。

残業しても手取りがあまり増えないのはなぜですか?

残業代も給与の一部なので所得税の対象になり、増えた額面がそのまま手取りにはなりません。所得税は累進課税のしくみで、年収が上がるほど増えた分にかかる税率も高くなっていきます。なお社会保険料は毎月の残業ですぐ変わるわけではなく、原則として一定期間の平均報酬で決まる「標準報酬月額」をもとに計算されます(残業が続いて報酬が大きく変われば、後から見直されることがあります)。手元に残る金額は手取りシミュレーターで額面を変えて試算できます。

扶養している家族がいると手取りは増えますか?

はい。配偶者や子などを扶養していると配偶者控除・扶養控除が使える場合があり、課税所得が減って所得税・住民税が軽くなるぶん、手取りが増えます(控除には所得などの要件があります)。一方で、自分が負担する社会保険料は扶養している家族の人数では変わりません。配偶者の働き方で世帯の手取りが変わる「年収の壁」は配偶者控除と年収の壁で解説しています。

産休・育休中も社会保険料や住民税は引かれますか?

産前産後休業・育児休業の期間中は、事業主を通じた申出により健康保険・厚生年金の保険料が免除されます。免除期間は将来の年金額の計算では保険料を納めた期間として扱われるため、年金額が減ることはありません。また、出産手当金や育児休業給付金は非課税です。一方で住民税は前年の所得に対して課税されるため、休業中でも納付が必要で、給与天引きから自分で納める普通徴収に切り替わる場合があります。詳しくは産休・育休のお金をご覧ください。

毎月引かれている社会保険料や税金は、どこで確認できますか?

毎月の給与明細の「控除」欄に、健康保険(40歳以上は介護保険料を含む)・厚生年金・雇用保険・所得税・住民税が項目別に書かれています。1年分の合計や所得税の精算結果は、年末から年明けに渡される源泉徴収票で確認できます。社会保険料そのもののしくみは社会保険のしくみで整理しています。

ふるさと納税やiDeCoをすると、毎月の手取りはすぐ増えますか?

iDeCoは掛金が全額所得控除になり、年末調整や確定申告を通じて所得税・住民税が軽くなります(掛金は口座から引かれるため、その月の手取り自体は減ります)。ふるさと納税は、寄附した金額のうち自己負担2,000円を除いた分が、原則として翌年の所得税・住民税から差し引かれる「前払い」のしくみで、手取りそのものが増えるわけではありません。そのうえで自己負担2,000円で返礼品を受け取れます(いずれも控除には上限や手続きの要件があります)。上限額の目安はふるさと納税上限シミュレーターで確認できます。


本記事は2026年(令和8年)の制度にもとづく一般的な情報です。税務上の判断は、給与明細・源泉徴収票や、国税庁・お住まいの自治体の公式情報をご確認ください。本記事は税務・投資の助言ではありません。

監修・運営:黒田 律(くろだ りつ)

内科医・産業医(医師8年目)/投資家

地方の病院で内科診療を続けながら、産業医として「働く人の心身とお金」に向き合う医師。記事は税・制度などを公的な一次情報で確認し、医療・制度面を監修しています。運営者・編集方針について →