介護士から看護師へ|ルート・費用・奨学金・年収アップを解説
介護福祉士・介護職員として働くあなたが、看護師になるための2つのルート、かかる費用と使える支援制度、そして年収がどれくらい変わるかを、目安の数値とともにつかめることをゴールにします。働きながら通えるのか、学費という投資はどう回収するのか、メリットだけでなくデメリットも正直に整理します。
なぜ「介護士→看護師」が現場で多いのか
介護の現場で利用者のそばにいると、観察やアセスメントを重ねるなかで「医師の指示のもとでの医療行為(採血・点滴・処置など)まで自分で担いたい」と感じる場面が出てきます。介護職から看護師を目指す人の典型的な動機は、こうした担える役割の違いです。介護福祉士も国家資格をもつ専門職ですが、看護師は法律上、医師の指示のもとで行える医療行為の範囲が広く、その分だけ任される領域が変わります。日々の観察力やケアの姿勢は、看護でもそのまま土台になります。
理由は大きく4つに整理できます。
- 業務の親和性:介護で培った生活支援・コミュニケーション・観察の力は、看護でもそのまま強みになります。
- 収入の変化:後述のとおり、看護師と介護福祉士では年収におおむね80〜110万円程度の差が出やすい傾向があります(統計・施設により幅があります)。
- 専門性・キャリアの広がり:訪問看護、病棟、介護施設の看護職など、活躍の場が広がります。
- 需要の大きさ:看護師は全国的に不足しており、年齢を重ねても働き続けやすい職種です。
国も、准看護師から看護師への進学を後押しする方向で制度を見直しています(通信制の入学要件緩和など。後述)。
出典:厚生労働省「看護師等学校養成所入学状況及び卒業生就業状況調査」各年度版(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/100-1.html)/日本看護協会「准看護師のための進学特設サイト」(https://www.nurse.or.jp/nursing/kango_seido/shingakushien/)
看護師になる2大ルート
看護師になる道は、大きく分けて2つです。どちらを選ぶかで、年数・費用・働きながら通えるかが変わります。どちらが上ということはなく、目的(最短か/働きながらか)に合わせて選ぶのが基本です。
ルート①:看護師養成課程に進む
看護大学(4年)/看護短期大学(3年)/看護師養成所・専門学校の3年課程に進学し、卒業後に看護師国家試験を受けて合格する道です。准看護師免許を持っていなくても入学でき、最短で看護師を目指せます。フルタイムの学業が中心になるため、原則として「いったん仕事を離れて学ぶ」前提になりやすいルートです。
ルート②:まず准看護師、それから看護師(働きながら型)
(1)准看護師養成課程(2年)を経て准看護師になり、(2)その後に看護師の2年課程に進んで看護師国家試験を目指す道です。准看護師として働いて収入を得ながら、段階的に看護師へ進めるのが特徴で、こちらも目的次第で十分に有力な選択肢です。なお、准看護師として働く間の収入水準や正看護師との年収差は、准看護師の年収と正看護師との差でくわしく整理しています。
2年課程には3つの形態があります。定時制は2年ではなく3年である点に注意してください。
| 形態 | 修業年限 | 働きながら | 主な入学要件 |
|---|---|---|---|
| 全日制 | 2年 | 難しい(昼間中心) | 准看護師免許 |
| 定時制 | 3年 | 比較的しやすい | 准看護師免許 |
| 通信制 | 2年 | しやすい | 准看護師免許+一定の就業経験 |
通信制は、准看護師免許を取得した後の就業経験年数が入学要件になります(准看護師免許を持たずに介護職員として働いた期間は算入されません)。この就業期間は月単位で通算でき、複数施設や非常勤(常勤換算)も合算可能で、病院だけでなく介護施設・訪問看護ステーション・保育所などで准看護師として看護業務に従事した期間も算入できます。准看護師として介護分野で働いてきた人にとっては、活かしやすい制度です。
必要な就業経験は現時点(令和7年度入学まで)は7年以上、令和8年(2026年)4月入学分からは5年(60か月)以上です。この「7年→5年」への短縮は、保健師助産師看護師養成所指定規則の一部を改正する省令により令和7年2月25日公布・令和8年4月1日施行で確定しています。ただし各校での具体的な出願条件や算入の扱いは学校ごとに異なるため、出願前に必ず志望校と日本看護協会の最新情報で確認してください。
出典:日本看護協会「准看護師のための進学特設サイト」(https://www.nurse.or.jp/nursing/kango_seido/shingakushien/)/西野学園 看護科2年課程(通信制)「就業経験が5年に短縮されます」令和7年(https://nishino-g.ac.jp/syogai/kango/topics/20250325521/)/厚生労働省 医道審議会保健師助産師看護師分科会 資料 令和6年3月8日(https://www.mhlw.go.jp/content/001221197.pdf)
費用の目安(学費はいくらかかる?)
学費は学校の種類と公立・私立で大きく変わります。あくまで幅・目安として捉えてください。
| 課程 | 年限 | 学費の目安(総額) |
|---|---|---|
| 看護専門学校(3年課程) | 3年 | 約200万〜300万円(私立は高く、私立上位では300万円を超える例もある。初年度納入金は約100万〜130万円前後) |
| 看護短期大学 | 3年 | 専門学校に準じる幅(学校差大) |
| 看護大学(学士) | 4年 | 国公立 約242万円(標準額)/私立 約500万〜800万円 |
| 准看護師課程 | 2年 | 約100万〜200万円 |
実際の負担は学費だけではありません。学ぶ間に仕事を減らす・辞めることで下がる収入も実質的なコストです。だからこそ、働きながら通えるルート②(定時制・通信制)が選ばれやすいのです。総コストとその後の年収アップを並べて考えるのが、後悔しない判断のコツです。
出典:国公立4年の標準額は文部科学省「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」に基づく標準額(入学料282,000円+授業料年535,800円×4年=計2,425,200円)。私立は受験ラボ「看護学部の学費」(https://jyuke-labo.com/kangogakubu/gakuhi/)等の集計に基づく目安(https://www.kango-iryo.net/university/uni-tuition/)。学校差が大きく、個別金額は各校の最新募集要項で要確認。
使える支援制度①:修学資金とお礼奉公
学費の負担を大きく下げてくれるのが、病院や自治体の修学資金(奨学金)貸与です。多くは「卒業後に指定の施設で一定期間働けば返済が免除される」仕組みです。
- 自治体・都道府県型:たとえば東京都の看護師等修学資金は月額25,000〜100,000円の4段階から選択でき、卒業後に都内の指定施設で看護業務に従事すると返還免除になります。免除に必要な従事年数は原則5年ですが、高額(月額75,000〜100,000円)を選び指定施設に従事する場合などは7年と、月額・施設区分で条件が分かれます。多くの県でも「県内の対象施設で継続5年前後(制度により3〜7年)従事で免除」が一般像です。
- 病院型(お礼奉公):病院・医療法人が在学中に奨学金を貸与し、卒業後その病院で一定期間勤務すれば返済免除。期間は在学年数(3年程度)に対応する短めの設定が多く、長くても5年程度が通例です。途中退職すると残額の一括返済を求められることがあります。
違約金が定められ、退職を事実上不可能にするような契約は労働基準法16条(賠償予定の禁止)に抵触し得ると指摘されています(最終的には契約内容に応じた個別判断になります)。一方、純粋な金銭の貸し借り(辞めても返済すれば足りる)であれば適法とされます。年数・金額・違約金条項は病院ごとに大きく異なるため、必ず契約内容を確認しましょう。奨学金返済の考え方は奨学金返済の記事で詳しく整理しています。
出典:東京都保健医療局「看護師等修学資金貸与事業」(https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/shikaku/syugaku)/厚生労働省「労働基準法(賠償予定の禁止・第16条)」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/)/日本弁護士連合会等の解説を参照。具体的な契約の有効性は弁護士等の専門家にご相談ください。
使える支援制度②:専門実践教育訓練給付金ほか
雇用保険に入って働いてきた人なら、専門実践教育訓練給付金が大きな味方です。看護師・准看護師の養成課程は厚生労働大臣指定の対象になっており、受講費用の一部がハローワークから戻ってきます。
| 条件 | 給付率 | 年間上限 |
|---|---|---|
| 受講中(6か月ごと) | 50% | 40万円 |
| 資格取得+修了後1年以内に就職 | 70% | 56万円 |
| さらに、令和6年(2024年)10月1日以降に受講を開始し、修了後の賃金が5%以上上昇 | 80% | 64万円 |
80%(年間上限64万円)への上乗せ(+10%分・年間上限8万円相当)は、令和6年(2024年)10月1日以降に受講を開始した講座が対象です。このほか、都道府県・自治体の修学資金や日本学生支援機構(JASSO)の奨学金も併用を検討できます。受給には雇用保険の支給要件期間(初回は通算2年以上、2回目以降は3年以上が目安)などの条件があるため、申込前にハローワークで確認しましょう。
専門実践教育訓練給付金+病院や自治体の修学資金+JASSO――条件が重ならない範囲で組み合わせると、自己負担を大きく圧縮できます。まずは志望校が給付金対象講座か、ハローワークの「教育訓練給付制度 検索システム」で確認するのが第一歩です。
出典:厚生労働省「教育訓練給付金」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html)/同「教育訓練給付制度」リーフレット 令和6年10月版(https://www.mhlw.go.jp/content/001529622.pdf)※支給要件期間の正確な値は最新のハローワーク案内で要確認。
年収はどれくらい変わる?
もっとも気になる年収の変化を、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の職種別データで見てみましょう。以下は確定値である令和4年(2022年)調査ベース(男女計)の目安です。
| 職種 | 年収の目安 | 差(対 看護師) |
|---|---|---|
| 介護職員・介護福祉士 | 約390万〜420万円(統計・施設により幅) | — |
| 看護師 | 約508万円(年収換算) | +約90〜110万円 |
看護師は同調査の男女計で「きまって支給する現金給与額(月)約35.2万円+年間賞与 約86.2万円」、年収換算で約508万円です(女性のみの所定内給与は月約30.5万円で、男女計とは差が出ます)。介護側は、賃金構造基本統計調査の福祉施設介護員等で約390万円、介護従事者処遇状況等調査の介護福祉士で約398万円、処遇改善加算をフルに取得する常勤者では420万円前後とする集計もあり、統計・施設によって幅があります。看護師との差は、対390万なら約110万円、対420万なら約90万円弱と、おおむね80〜110万円程度と見るのが実態に近いでしょう。なお近年は処遇改善加算により介護側の水準も上昇しており、差は固定的ではありません。
上記は令和4年(2022年)調査ベースの確定値です。最新の令和5年・令和6年調査の値はe-Statの職種別表で順次更新されるため、実際の判断時は最新値をご確認ください。介護側の年収はどの統計(賃構統計/処遇状況等調査)を見るかで前提が変わり、地域・勤務先・夜勤回数によっても大きく変わります。
「介護福祉士のいまの手取り」と「看護師になった後の手取り」を比べたい → 転職の手取り比較/自分の手取りを今すぐ知りたいなら 手取りシミュレーター
出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」(職種別/e-Stat https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011429)/厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jyujisya/22/dl/r04gaiyou.pdf)。最新値はe-Statで要確認。
働きながらの両立・年齢・投資の回収
看護師への転身は、学費という投資です。回収できるかは「年収の上がり幅 × その後の就労年数」で決まります。たとえば年収が額面で100万円上がり、その後20年働けば、単純計算では2,000万円――ただしこれは税・社会保険料を引く前の額面ベースの数字です。看護師として年収が増えると累進課税や社会保険料の負担も増えるため、手取りベースの増分は額面より小さくなります。さらに学費や在学中に減る収入も差し引く必要があり、正味のリターンは目減りします。「数百万円の学費は回収できる計算」になりやすいのは確かですが、個人差が大きい話として捉えてください。
- 年齢:30代・40代で看護師を目指す人は珍しくありません。回収年数を確保しやすいぶん、若いほど投資効率は高くなります。
- 体力:学業と仕事・家庭の両立は負担が大きく、夜勤を含む実習・勤務もあります。無理のない形態(定時制・通信制)選びが鍵です。
- 家計:在学中の収入減を、貯蓄・配偶者収入・給付金でどう埋めるかを事前に設計しておきましょう。
メリットとデメリット(正直なところ)
最後に、良い面だけでなく負担も正直に整理します。
| メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|
| 年収がおおむね80〜110万円程度アップしやすい | 在学中は収入が減り、学費もかかる |
| 担える医療行為・キャリアの幅が広がる | 学業と仕事・家庭の両立は体力的に厳しい |
| 介護経験がそのまま強みになる | お礼奉公契約は途中退職で一括返済リスク |
| 需要が大きく長く働ける | 国家試験合格というハードルがある |
看護師になった後の年収を伸ばす工夫は看護師の年収UPで、転職先の探し方は転職サイトの選び方で解説しています。夜勤の手取りへの影響が気になる人は夜勤と税金も参考にしてください。
まとめ
- 看護師になるルートは2つ。①看護師養成課程(3〜4年)→国家試験と、②准看護師→2年課程(全日制2年/定時制3年/通信制2年)。働きながらなら定時制・通信制が現実的。両ルートに優劣はなく目的次第。
- 通信制の就業経験要件は現時点で7年以上、令和8年(2026年)4月入学分から5年以上(省令で施行確定済み)。准看護師免許取得後の就業期間が対象で、介護施設での准看護師としての経験も算入できる。
- 学費の目安は専門学校3年で約200万〜300万円、看護大学4年で国公立約242万円・私立約500万〜800万円。幅で捉える。
- 支援は専門実践教育訓練給付金(最大80%・年間上限64万円)+病院・自治体の修学資金+JASSOを組み合わせる。お礼奉公の契約内容は要確認。
- 年収は介護職員・介護福祉士 約390万〜420万円→看護師 約508万円で、差はおおむね80〜110万円程度(額面)。手取りベースでは増分は小さくなる。投資回収は年齢が若いほど有利。
よくある質問
介護士として働きながら看護師になれますか?
可能です。准看護師を経て2年課程の定時制(3年)や通信制(2年)を選べば、働きながら段階的に看護師を目指せます。通信制は准看護師免許取得後の就業経験(現時点で7年以上、令和8年4月入学から5年以上)が入学要件です。最短を優先するなら3〜4年の養成課程ですが、こちらは学業中心になりやすい点に注意してください。
学費はどのくらい用意すればいいですか?
看護専門学校3年課程で総額約200万〜300万円、看護大学4年で国公立 約242万円・私立 約500万〜800万円が目安です(学校差が大きい)。ただし専門実践教育訓練給付金(最大80%)や病院・自治体の修学資金を使えば、実質負担を大きく下げられます。在学中の収入減も合わせて資金計画を立てましょう。
お礼奉公の奨学金は使っても大丈夫ですか?
多くは適法で有効な支援制度ですが、途中退職で残額の一括返済を求められることがあります。違約金つきで退職を縛る契約は労働基準法16条に抵触し得ると指摘されています(個別判断)。勤務年数・金額・違約金条項を事前によく読み、納得してから契約してください。
年収はどれくらい上がりますか?
賃金構造基本統計調査ベース(男女計)で、介護職員・介護福祉士 約390万〜420万円に対し看護師は約508万円と、おおむね80〜110万円程度の差が出やすい傾向です。ただし額面の数字であり、税・社会保険料を引いた手取りでは増分は小さくなります。地域・勤務先・夜勤回数でも変わるため目安として捉え、転職の手取り比較で自分のケースを試算するのがおすすめです。
30代・40代からでも目指せますか?
目指せます。30代・40代で看護師になる人は珍しくありません。看護師は需要が大きく長く働ける職種なので、投資(学費)の回収期間も確保しやすいです。体力面では無理のない通学形態を選び、家計はライフプランで事前に設計しておくと安心です。
免責:本記事は2026年(令和8年)時点の公開情報に基づく一般的な解説であり、特定の進学・転職・契約を推奨するものではありません。学費・年収・要件・給付率は制度改正や学校・地域により変わります(通信制の5年要件は令和8年4月入学分から施行)。記載数値は「目安・幅」であり、最新の確定値は各一次情報でご確認ください。実際の判断は各校・ハローワーク・自治体・専門家にご相談ください。参照源:厚生労働省 賃金構造基本統計調査(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011429)/厚生労働省 教育訓練給付金・令和6年10月版リーフレット(https://www.mhlw.go.jp/content/001529622.pdf)/日本看護協会 准看護師進学特設サイト(https://www.nurse.or.jp/nursing/kango_seido/shingakushien/)/厚生労働省 医道審議会資料 令和6年3月8日(https://www.mhlw.go.jp/content/001221197.pdf)/東京都保健医療局 看護師等修学資金貸与事業(https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/shikaku/syugaku)