新社会人ナースのお金入門
初任給から始める一生モノの習慣
国家試験に合格し、はじめての給料を手にする――おめでとうございます。学生時代のアルバイトとはケタの違う「初任給」を見て、これから何にどう使えばいいのか、漠然とした不安を感じている人も多いのではないでしょうか。
お金の習慣は、忙しくなるほど後回しになります。けれど新人のうちに身につけた「お金の型」は、その後30年の資産を大きく左右します。難しい知識はいりません。最初に覚えるべきことは、ほんの数個です。
この記事では、新社会人ナースが知っておきたい「初任給の手取り」「2年目の住民税」「最初にやるべき3つのこと」「少額から始めるNISA」「奨学金との付き合い方」「やりがちな失敗」を、現場の目線でやさしくまとめます。煽りません。等身大の一歩から始めましょう。
初任給の手取りのしくみと「2年目の住民税ショック」を理解したうえで、口座分け・先取り貯蓄・生活防衛資金という土台を作り、少額のNISAと奨学金返済を無理なく回せるようになること。
初任給の手取りは額面の約8割
看護師の初任給は、大卒で月給おおよそ21〜22万円、専門卒・短大卒だとこれよりやや低めが一般的です(地域・施設により幅があります)。ただし、この「額面」がそのまま振り込まれるわけではありません。給料明細を見ると、いくつかの項目が天引きされています。
1年目に額面から引かれるのは、次の4つが中心です。
| 天引き項目 | 何のためのお金か | 1年目の有無 |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 病気・ケガ・出産に備える | あり |
| 厚生年金保険料 | 老後・障害・遺族の年金 | あり(天引きの最大項目) |
| 雇用保険料 | 失業・育休・教育訓練 | あり(少額) |
| 所得税 | その年の所得にかかる国の税 | あり(毎月の概算を源泉徴収) |
| 住民税 | 前年所得にかかる地方の税 | なし(1年目は前年所得がほぼゼロのため) |
結果として、手取りは額面のおおむね8割前後に落ち着きます。たとえば額面22万円なら、手取りは17〜18万円ほどのイメージです。「思っていたより少ない」と感じる人もいますが、これは天引きが多いというより、1〜2年目は夜勤手当がまだ十分に乗っていないことも大きな理由です。
夜勤が始まると、夜勤手当(1回あたり数千円〜1万円超)が加わって手取りは増えていきます。逆に言えば、夜勤に入る前の1年目は、生涯でもっとも手取りが少ない時期になりがちです。ここで生活水準を上げすぎないことが、後々ラクになるコツです。なぜ額面の8割になるのかの内訳は 医療職の手取りはなぜ額面の8割なのか で詳しく解説しています。
2年目に手取りが減る「住民税ショック」
新人ナースがいちばん戸惑うのが、2年目に手取りが減るという現象です。1年目より給料(額面)は上がっているのに、振込額が前より少ない――そんな逆転が起こります。犯人は住民税です。
住民税は、前年(1〜12月)の所得に対して課税され、翌年6月から1年遅れで天引きが始まります。つまり、こういう流れです。
| 時期 | 住民税の状況 | 手取りへの影響 |
|---|---|---|
| 1年目(入職〜翌年5月) | 前年所得がほぼゼロ → 住民税なし | 天引きが少なく手取りは多め |
| 2年目の6月〜 | 1年目の所得に対する住民税の天引き開始 | 毎月1万円前後 手取りが減る |
| 3年目以降 | 前年所得に応じて継続課税 | 給与の伸びと住民税が並行 |
この「2年目の6月から急に手取りが減る」体験を、現場では住民税ショックと呼んだりします。知らないと「計算ミス?」と慌てますが、しくみを知っていれば慌てません。2年目の6月以降は手取りが1万円前後下がると最初から見込んでおけば、家計が崩れることはありません。
月の手取りイメージ。2年目は住民税が引かれ始めるため、額面が同じか増えていても手取りが下がることがあります。金額は一例(額面・自治体・夜勤回数により変わります)。
住民税は「1年遅れ」でやってくるため、退職・転職した翌年にも前年分の請求が来ます。新人時代から「住民税は後払い」と覚えておくと、将来ライフイベントでお金が動くときに困りません。天引きの全体像は 手取りはなぜ額面の8割なのか もあわせてどうぞ。
最初にやるべき3つのこと
お金の勉強は奥が深いですが、新人がまず手をつけるべきは次の3つだけです。この順番でやれば、それだけで「お金が貯まる人」の土台ができます。
① 口座を「使う」「貯める」に分ける
1つの口座に給料が入り、そこから生活費も貯金もまかなおうとすると、「気づいたら残高がない」状態になりがちです。給料が入る口座(使う口座)と、貯めるための口座(触らない口座)を分けましょう。手数料無料のネット銀行を貯蓄用にすると、引き出しにくく続けやすくなります。
② 先取り貯蓄(残ったら貯める、をやめる)
貯蓄が苦手な人ほど「使って余ったら貯める」をしがちですが、これはほぼ貯まりません。逆にして、給料日に決めた額を先に貯蓄用口座へ移すのが「先取り貯蓄」です。職場に財形貯蓄や給与天引きの積立があれば、最初から手取りに含まれないので最強です。
③ 生活防衛資金(まず生活費の3〜6か月分)
投資より先に確保したいのが生活防衛資金です。病気・ケガ・急な退職など、収入が止まっても生活を守る現金のクッションで、目安は生活費の3〜6か月分。これがあると、いざというときに慌てて借金やリボに頼らずに済みます。詳しくは 生活防衛資金はいくら必要か で解説しています。
| やること | 具体策 | つまずき防止のコツ |
|---|---|---|
| 口座を分ける | 使う口座+貯める口座の2つ | 貯める口座はネット銀行で「引き出しにくく」 |
| 先取り貯蓄 | 給料日に自動で定額を移動 | 財形・自動入金サービスで「手動ゼロ」に |
| 生活防衛資金 | 生活費の3〜6か月分を現金で確保 | 貯まるまで投資は最小限に |
「いくら貯めるか」で迷ったら、まずは手取りの1割からで十分です。額面22万円・手取り17.5万円なら、月1.5〜2万円から。慣れて夜勤手当が増えてきたら、増えた分の半分を貯蓄に回すと、生活を圧迫せずにペースが上がります。
新人のうちに始めたいNISA
生活防衛資金のめどが立ってきたら、次の一歩がNISA(少額投資非課税制度)です。「投資」と聞くと身構えるかもしれませんが、新人にとって最大の武器は「複利」と「時間」です。そして時間は、若いあなたがいちばん多く持っている資産です。
NISAには2つの枠があり、初心者がまず使うのはつみたて投資枠です。金融庁が選んだ長期・分散・低コストの投資信託が対象で、毎月決まった額をコツコツ積み立てます。NISAの利益には税金がかかりません(通常は約20%課税)。
| 項目 | つみたて投資枠 | 成長投資枠 |
|---|---|---|
| 年間の上限 | 120万円 | 240万円 |
| 対象商品 | 長期・積立向けの投資信託(金融庁選定) | 上場株式・投資信託など幅広い |
| 新人へのおすすめ度 | ◎ まずはここから | ○ 慣れてから |
| 非課税 | 運用益・分配金が非課税(生涯投資枠1,800万円) | |
金額は月1,000円や5,000円といった少額で構いません。大事なのは金額より「早く始めて長く続ける」こと。たとえば毎月1万円を年利3%で30年積み立てると、元本360万円が約580万円になります(あくまで一例で、運用成果は変動します)。これが時間と複利の力です。
夜勤や残業で値動きを毎日チェックする時間はありません。だからこそ、毎月自動で積み立てて、あとは放っておくつみたて投資枠が医療職に向いています。制度の全体像は NISA・iDeCo入門 で、口座の違いは記事内でやさしく解説しています。まずは生活防衛資金が最優先。それが整ってから、少額で一歩を踏み出しましょう。
奨学金がある人へ
看護学生の多くが、日本学生支援機構(JASSO)や病院の奨学金を利用しています。返済が始まると毎月の手取りから引かれるため、「投資どころではない」と感じるかもしれません。まずは落ち着いて、自分の借入を整理しましょう。
まず返済条件を確認する
借りている奨学金が無利子(第一種)か、有利子(第二種)かで考え方が変わります。返済総額・毎月の返済額・金利・完済予定年を、貸与団体の書類やマイページで確認しておきましょう。
繰上返済 vs 投資の考え方
余裕資金ができたとき、「繰上返済すべきか、NISAに回すべきか」は新人がよく悩むテーマです。判断の軸はシンプルで、奨学金の金利と、投資で期待できる利回りを比べることです。
| 状況 | 向いている選択 | 理由 |
|---|---|---|
| 無利子(第一種) | NISAを優先しやすい | 急いで返す金利メリットが小さい。手元資金を残せる |
| 有利子(第二種)で金利が高め | 繰上返済を優先しやすい | 確実に金利負担を減らせる=「確実な利回り」 |
| 生活防衛資金が未確保 | まず現金を貯める | どちらより先に、収入が止まったときの備えを |
繰上返済と運用のどちらを優先するかの考え方は 奨学金返済戦略 で、具体例を交えて詳しく整理しています。
病院独自の修学資金(奨学金)は、「指定の病院で一定年数働けば返済免除」という、いわゆるお礼奉公の条件が付いていることがあります。早期に辞めると一括返済を求められるケースもあるため、勤続年数の条件・免除のタイミング・途中退職時の扱いを、入職時の書類で必ず確認してください。転職を考えるときの判断材料になります。
やりがちな失敗
最後に、新人時代にやってしまいがちな「お金の失敗」を挙げておきます。どれも一度はまると抜け出しにくいものばかり。知っておくだけで避けられます。
| やりがちな失敗 | 何が問題か | かわりにどうする |
|---|---|---|
| リボ払い | 金利が年15%前後と高く、元本が減りにくい。残高が見えにくい | 原則は一括払い。使うなら必ず明細で残高を把握 |
| 見栄消費 | 同期や先輩に合わせてブランド・外食・車に背伸び。固定費が膨らむ | 「自分の手取り基準」で生活水準を決める |
| 保険の入りすぎ | 独身・扶養なしで高額な死亡保障や貯蓄型保険に加入しがち | まず公的保障(傷病手当金など)を確認してから必要分だけ |
| ボーナス全額消費 | まとまった額が入ると気が大きくなり、使い切ってしまう | ボーナスの一部を先取りで貯蓄・NISAへ自動配分 |
医療職は傷病手当金(病気で長期に休んだとき、給料の約2/3が最長1年6か月)など、公的な保障が手厚い仕事です。「不安だから」と民間保険を盛りすぎる前に、自分がすでに持っている保障を知ることが、いちばんの節約になります。社会保険のしくみは 手取りの解説記事 とあわせて押さえておきましょう。
自分の初任給から手取りを計算 → 手取りシミュレーター
まとめ — 20代でやるかどうかで30年後が変わる
- 看護師の初任給は大卒で月給約21〜22万円、手取りは額面の約8割。1年目は住民税がなく、夜勤手当もまだ少ない時期
- 2年目の6月から住民税の天引きが始まり、額面が増えていても手取りが下がる「住民税ショック」に注意(前年所得に1年遅れで課税)
- 最初にやるべきは①口座を分ける ②先取り貯蓄 ③生活防衛資金(生活費3〜6か月分)の3つ
- 土台ができたらNISAのつみたて投資枠を少額から。最大の武器は「複利」と「時間」
- 奨学金は金利(無利子か有利子か)で繰上返済か投資かを判断。病院奨学金はお礼奉公の条件を必ず確認
- リボ払い・見栄消費・保険の入りすぎ・ボーナス全額消費は、知っておくだけで避けられる
お金の習慣は、複利と同じで「早く始めた人」ほど有利になります。難しいことを完璧にやる必要はありません。今月、貯蓄用の口座を1つ作る。来月、先取りで1万円移してみる。その小さな一歩の積み重ねが、30年後のあなたを支えます。
次の一歩として、手取りの内訳は 手取りはなぜ額面の8割なのか、貯蓄の土台は 生活防衛資金はいくら必要か、投資の第一歩は NISA・iDeCo入門、奨学金は 奨学金返済戦略 をどうぞ。まずは 手取りシミュレーター で、自分の数字を確かめてみてください。
本記事は2026年(令和8年)時点の制度にもとづく一般的な情報です。初任給の水準は厚生労働省「賃金構造基本統計調査」や各施設の募集要項により幅があり、地域・施設・最終学歴によって異なります。住民税は前年(1〜12月)の所得に対し翌年6月から課税される「後払い」のしくみで、税率・均等割は自治体により異なります。社会保険料・所得税の料率は本サイトの計算エンジン(令和7年基準)にもとづきます。NISAの非課税枠・対象商品は金融庁の制度概要によります。投資には元本割れのリスクがあり、記載のシミュレーション結果は将来の運用成果を保証するものではありません。奨学金・修学資金の返済条件は貸与団体・勤務先により異なります。本記事は投資・税務・労務の助言ではありません。個別の判断は勤務先の人事・総務部門や各機関の公式情報、必要に応じて専門家にご確認ください。