給与・手取り

義肢装具士(PO)の年収・手取り・働き方
義手・義足・装具をつくる国家資格の給料事情

2026年6月19日 更新 / メディカルマネー編集部 / 監修:黒田律(内科医・産業医) / 初級者向け

義肢装具士(Prosthetist and Orthotist、略してPO)は、義手・義足といった「義肢」や、体を支える「装具」を、一人ひとりの体に合わせて設計・製作・適合させる国家資格者です。他のコメディカルと違い、勤務先の多くが病院ではなく民間の義肢装具製作会社で、そこから提携先の病院・リハビリテーション施設へ出向いて働く、という独特のスタイルを持っています。

ところがこのPO、年収を調べようとすると壁にぶつかります。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」に「義肢装具士」だけを安定して取り出せる職業区分が乏しく、関連する区分や求人水準から「目安」を読むしかないのです。この記事では、その前提を正直にお伝えしたうえで、年収のレンジ・手取りの考え方・働き方の特徴、そして臨床工学技士など他の医療技術職との比較までを、一次情報をもとに通しで整理します。

この記事のゴール

専用の賃金統計が乏しい義肢装具士について、関連区分・求人水準からの「目安レンジ」を率直に押さえ、民間製作会社中心という働き方の特徴を理解し、額面から手取りを自分で見積もれるようになること。数字はすべて目安として示し、断定はしません。正確な手取りは 手取りシミュレーター で計算できます。

義肢装具士(PO)はどんな仕事か

義肢装具士は、義肢装具士法(昭和62年・1987年法律第61号、1988年施行)に定められた国家資格です。法律では、その仕事を「医師の指示の下に、義肢及び装具の装着部位の採型並びに義肢及び装具の製作及び身体への適合を行うことを業とする」と定義しています。つまり、医師の処方を受けて患者さんの体を採型(型取り)・採寸し、それをもとに義肢装具を製作し、病院で体に合わせて調整する(適合)までを一貫して担う職種です。

扱う対象は、法律上は次のように分かれます。

  • 義肢:手足の欠損を補う器具。義手・義足がこれにあたり、失われた手足の形や機能を代替します。
  • 装具:手足や体幹の機能に障害がある人に装着し、機能の回復・低下の抑制・補完を行う器具。コルセットや下肢装具、脳卒中後の歩行をサポートする装具などが含まれます。

ものづくり(製作)と医療(採型・適合)の両方にまたがるのが特徴で、患者さんやリハビリ職・医師とのコミュニケーションも欠かせません。職種ごとの年収・手取りの全体像は職種別の年収と手取りもあわせてご覧ください。

💡「病院職員」ではなく「製作会社の社員」が中心

看護師や放射線技師が病院に直接雇われるのに対し、義肢装具士の多くは民間の義肢装具製作会社に所属し、契約する病院・リハ施設に出向いて採型や適合を行います。給与を払うのは病院ではなく製作会社。だから年収も「病院の給与表」ではなく「民間企業の給与水準」で決まる――これが、後述する統計の読みにくさにもつながっています。

有資格者は約6,500人|希少な専門職

義肢装具士は、医療職の中でも人数がきわめて少ない資格です。国家試験の指定登録機関である公益財団法人テクノエイド協会の資料や厚生労働省の合格発表によると、第1回から第38回(2025年)までの累計合格者数は約6,460人。養成校も全国で9校(北海道・埼玉・東京・愛知・兵庫・熊本など)と限られています。直近の第38回試験(2025年2月実施)は受験186名・合格133名・合格率71.5%でした。

看護師が国内に160万人超いることを思えば、その希少性は際立っています。少数精鋭の専門職である点は、求人の動き方や年収の決まり方にも影響します。これから目指す人にとっては、養成校・国家試験のルートを把握しておくことが第一歩です。

出典:公益財団法人テクノエイド協会「義肢装具士情報」(https://www.techno-aids.or.jp/senmon/)、厚生労働省「第38回義肢装具士国家試験の合格発表について」(https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2025/siken18/about.html)

義肢装具士の年収の目安|専用統計が乏しい点に注意

ここが本記事のいちばん大事な前提です。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」には、義肢装具士だけを安定して取り出せる職業区分が乏しく、各種の進路・職業情報サイトでも、義肢装具士の年収は「その他の医療・看護・保健の専門的職業」など他職種を含む広い関連区分の値や、ハローワーク求人データを使った推計として示されているのが実情です。したがって、以下の数字はあくまで関連区分・求人水準からの「目安」であり、義肢装具士だけを取り出した公的な確定値ではありません。

その関連区分・求人統計(令和5年の賃金構造基本統計調査ベース等)から見ると、義肢装具士の平均年収はおおむね450〜460万円前後、平均月収は24万円前後が一つの目安とされています。全産業の平均に近い水準で、突出して高くも低くもない、というのが大まかな位置づけです。

区分年収の目安(額面)備考
新卒・初任給ベース約250〜350万円製作会社の初年度。月給20〜25万円前後の求人が中心。賞与の有無で差
20代後半〜30代約350〜450万円採型・適合を一通り任される時期。経験と技能で上がる
30代後半〜40代(中堅)約450〜550万円主任クラス、難症例対応や担当病院の拡大で上振れ
管理職・大手・独立など約550〜700万円超会社規模・役職で大きく変動。上位層に限られる目安

※厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和5〜6年)の関連区分(その他の医療・看護・保健の専門的職業等)およびハローワーク・公開求人情報をもとにした編集部の目安レンジです。義肢装具士の独立区分による確定値ではなく、会社規模・地域・経験で大きく変わります。

「平均◯万円」を額面どおりに受け取らない

関連区分の平均年収には、義肢装具士以外の職種も混ざっている場合があります。平均年齢・勤続年数も区分値であって、義肢装具士の実像とは限りません。「だいたい全産業平均くらいの幅にいる専門職」というざっくりした位置づけとして受け止め、細かい数字を独り歩きさせないのが安全です。

年収を左右する3つの要素

専用統計が乏しいぶん、義肢装具士の年収は「平均値」より「何で差がつくか」を理解するほうが役に立ちます。主に次の3つです。

1. 勤務先の規模(大手か中小か・独立か)

義肢装具製作会社は、全国に拠点を持つ大手から、地域密着の中小事業所までさまざまです。一般に規模の大きい会社ほど給与表や賞与が整い、年収が安定して上がりやすい傾向があります。一方、中小事業所は基本給が控えめなこともありますが、幅広い業務を早く任され技能が身につく利点も。将来的に独立して自分の製作所を持つ道もあり、その場合は年収の上限が大きく変わります。

2. 技能と経験(年齢より「腕」が効く)

義肢装具士は、年功というより採型・製作・適合の技能が評価される職人的な側面が強い職種です。難しい症例や特殊な義肢に対応できるようになると、社内での評価や担当範囲が広がり、収入アップにつながります。「経験を重ねるごとになだらかに上がる」と言われるのはこのためです。

3. 担当病院・業務範囲の広がり

担当する提携病院が増えたり、義肢(義手・義足)と装具の両方を高いレベルで扱えたりすると、会社にとっての貢献度が上がり、役職・手当に反映されやすくなります。リハビリ職や医師との連携力も、地味ですが評価を左右する要素です。

💡「夜勤手当で稼ぐ」職種ではない

看護師や臨床工学技士のように夜勤・当直で年収が大きく動く構造ではありません。義肢装具士は日勤中心で、年収を上げるレバーは技能・役職・勤務先選びに寄っています。だからこそ、長期で腕を磨き、評価される環境を選ぶことが効いてきます。

手取りの考え方|額面の約8割が目安

ここまでの年収はすべて「額面」です。実際に口座へ入る手取りは、社会保険料と税金を引いた金額になります。引かれるのは次の5つで、これは義肢装具士に限らず全職種で共通です。

  1. 健康保険料(40歳以上は介護保険料も上乗せ)
  2. 厚生年金保険料
  3. 雇用保険料
  4. 所得税
  5. 住民税

結果として、手取りは額面のおよそ75〜80%に落ち着きます。「ざっくり8割」と覚えておくと見積もりが速くなります。引かれるお金の中身は 「手取りはなぜ額面の8割なのか」 で1項目ずつ解説しています。

額面年収(POの例)手取り年収の目安月あたり(賞与込みを12等分)
約300万円(新卒・初年度)約240〜245万円約20万円
約450万円(中堅の目安水準)約350〜360万円約29〜30万円
約550万円(主任・大手クラス)約425〜435万円約36万円
約650万円(管理職等)約495〜505万円約41〜42万円

※単身・40歳未満を想定したおおよその目安です。扶養家族がいると控除が増えて手取りは上がります。地域・手当構成で変わります。

会社を比べるときは必ず「手取り」で

転職や就職で複数の会社を比べるとき、提示される「年収◯万円」は額面です。賞与の実績(何か月分か)、固定残業の有無、退職金制度まで含めて、最後は手取りベースでそろえて比較しましょう。額面が高くても手取りが思ったほど伸びないことは珍しくありません。

額面から税・社会保険を引いた手取りを、賞与込みでざっくり試算 → 手取りシミュレーター

需要はどうか|高齢化とリハビリ拡大が追い風

義肢装具士の将来性を語るうえで外せないのが、高齢化リハビリテーション需要の拡大です。脳卒中や骨折後のリハビリで使う装具、糖尿病による下肢切断後の義足、加齢に伴う膝・腰のサポート装具など、装具・義肢を必要とする場面は高齢化とともに増えています。人数の少ない希少資格である一方で需要は底堅く、「数が少ないからこそ食いっぱぐれにくい専門職」と言われる背景がここにあります。

ただし、需要があること=個人の年収が自動的に上がること、ではありません。給与は所属する製作会社の経営状況や給与体系に左右されます。需要の追い風を自分の収入に変えるには、結局のところ技能を磨き、評価される環境を選ぶという前述のレバーが効いてきます。

他の医療技術職との比較

義肢装具士の位置づけをつかむには、同じ「医療技術職」と並べてみるのがわかりやすいでしょう。下表は各職種の関連区分・求人水準からの目安レンジで、いずれも施設・会社・地域で大きく変わります。

職種年収の目安レンジ主な勤務先・特徴
義肢装具士(PO)約300〜600万円台民間製作会社中心。専用統計が乏しく目安。日勤中心、技能で差
臨床工学技士(ME/CE)約280〜700万円超病院・透析クリニック。当直・オンコール手当で上振れ
診療放射線技師・臨床検査技師約400〜600万円台病院中心。夜勤・当直で差。比較的安定
リハビリ職(PT・OT・ST)約350〜550万円台病院・施設。義肢装具士と連携する近接職種

※各職種とも厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和5〜6年)の関連区分・公開求人情報をもとにした目安レンジ。義肢装具士・臨床工学技士は独立区分が乏しく、特に「目安」性が強い点に注意してください。

こうして並べると、義肢装具士の年収は他の医療技術職と近い水準帯にあることがわかります。違いは「勤務先が病院ではなく民間製作会社中心であること」「夜勤手当ではなく技能・役職で差がつくこと」。給料の決まり方の構造が他職種と異なる点を押さえておくと、キャリア設計がしやすくなります。当直・オンコールで年収が動く臨床工学技士との対比は臨床工学技士(ME)の年収・手取りで詳しく解説しています。

「お金・働き方・やりがい」の三角形で見る

義肢装具士は、患者さんの「歩く」「動く」を直接支える手応えのある仕事です。年収レンジ自体は他の医療技術職と大きく変わりませんが、ものづくりと医療の両方に関われる点や、希少資格ゆえの安定感は数字に表れにくい価値です。年収だけでなく、こうした働き方の満足度も含めて職場を選ぶのが結果的に納得につながります。

年収を上げる現実的な方法

夜勤手当で稼ぐ職種ではないからこそ、義肢装具士が手取りを伸ばす道は、おおむね次の4つに整理できます。

  • 技能を磨いて担当範囲を広げる:難症例・特殊義肢に対応できると評価と収入が上がる。王道で最も確実。
  • 役職に就く・大手や条件の良い会社へ移る:給与表・賞与が整った会社は年収が安定して上がりやすい。
  • 将来的な独立も視野に:自分の製作所を持つ道は年収の上限を変えるが、経営リスクも伴う。長期の選択肢として。
  • 手取りで比べて転職する:会社ごとの差が大きい職種だからこそ、額面でなく手取り・総合条件で比較する。

転職を検討するなら、提示された額面だけでなく賞与実績・退職金・手当込みの手取りで比べるのが鉄則です。比較の手順は転職と手取り、信頼できる窓口の見極めは転職サイトの選び方を参考にしてください。

増えた分をどう守るか

技能や役職で年収が上がっても、税・社会保険で目減りし、使ってしまえば残りません。安定した需要が見込める専門職だからこそ、「増やす」と同時に「守る・育てる」仕組みを早めに持つと差がつきます。

  • 節税の基本を押さえる:医療費控除・各種控除を取りこぼさない(節税)。
  • ふるさと納税:年収が上がるほど枠も広がる(ふるさと納税)。
  • NISA・iDeCo:上がった分の一部を長期運用に回す(NISA・iDeCo)。

まとめ

  • 義肢装具士(PO)は、義手・義足・装具を製作・適合する国家資格(義肢装具士法・1987年)。民間の義肢装具製作会社に所属し病院に出向く働き方が中心。
  • 賃金構造基本統計調査に義肢装具士だけを取り出せる区分が乏しく、関連区分・求人水準からの目安では平均年収450〜460万円前後。あくまで他職種を含む区分からの推計で、断定はできない。
  • 年収は夜勤手当ではなく技能・役職・勤務先の規模で差がつく。日勤中心の職人的な専門職。
  • 手取りは額面の約75〜80%。会社の比較は必ず手取りベースで。
  • 高齢化・リハビリ需要を追い風に、希少資格として安定感がある。年収レンジは他の医療技術職と近い水準帯

関連区分の平均はあくまで出発点です。手取りシミュレーター に自分の数字を入れて、「実際にいくら残るのか」を確かめるところから始めてみてください。


本記事は2026年(令和8年)時点の一般的な情報であり、特定の就職・転職・投資・税務に関する助言ではありません。義肢装具士には厚生労働省「賃金構造基本統計調査」上、義肢装具士のみを安定して取り出せる職業区分が乏しく、本文の年収は「その他の医療・看護・保健の専門的職業」等の関連区分(令和5〜6年)およびハローワーク・公開求人情報をもとにした編集部の目安レンジです。義肢装具士のみを取り出した公的な確定値ではなく、会社規模・地域・経験・雇用形態により大きく異なります。資格・試験・有資格者数は公益財団法人テクノエイド協会および厚生労働省の公表資料を参照(累計合格者数は第1回〜第38回の概算)。具体的な手取りや税務はご自身の給与明細・源泉徴収票や、お勤め先・税理士・公的窓口でご確認ください。制度・統計は改定される場合があります。

監修・運営:黒田 律(くろだ りつ)

内科医・産業医(医師8年目)/投資家

地方の病院で内科診療を続けながら、産業医として「働く人の心身とお金」に向き合う医師。記事は税・制度などを公的な一次情報で確認し、医療・制度面を監修しています。運営者・編集方針について →