産休・育休でもらえるお金
出産手当金・育休給付金・2025年新制度まで完全ガイド
「産休・育休に入ったら、収入はどうなるの?」——これは医療職にとって切実な疑問です。特に看護師は夜勤手当の有無で手取りが大きく変わるため、産休前との収入差に不安を覚える方が多いでしょう。
結論から言えば、産休・育休中は複数の公的給付があり、正しく申請すれば「収入ゼロ」にはなりません。さらに、2025年4月からは新制度が加わり、育休開始直後は手取りの実質10割相当を受け取れるケースも出てきました。
この記事では、出産育児一時金・出産手当金・育児休業給付金の計算方法から、2025年新設の給付金、社会保険料免除、医療職ならではの注意点まで、もらえるお金の全体像を整理します。
産休・育休で受け取れるお金の種類と金額の目安、2025年新制度の条件、社会保険料免除の仕組み、そして医療職特有の注意点(夜勤手当の影響・院内保育所など)。看護師の月給28万円のケースで具体的な金額を計算しています。
産休・育休でもらえるお金の全体像
産休・育休の期間には、タイミングに応じて異なる給付金が支給されます。まず全体の流れを把握しておきましょう。
タイムラインと給付の対応
| 時期 | 期間 | もらえるお金 | 支給元 |
|---|---|---|---|
| 産前休業 | 出産予定日の42日前〜出産日 | 出産手当金(日額の2/3) | 健康保険 |
| 出産時 | 出産日 | 出産育児一時金(50万円) | 健康保険 |
| 産後休業 | 出産翌日〜56日 | 出産手当金(日額の2/3) | 健康保険 |
| 育休(最初180日) | 産後57日目〜 | 育児休業給付金(67%) | 雇用保険 |
| 育休(181日目〜) | 〜子が1歳まで | 育児休業給付金(50%) | 雇用保険 |
これに加え、育休中は社会保険料(健康保険料+厚生年金保険料)が免除されます。また、2025年4月からは新たに「出生後休業支援給付金」と「育児時短就業給付金」が創設されました(後述)。
2024年の日本看護協会「病院看護実態調査」によると、80.5%の病院で正規看護職員が産休・育休を取得しています。制度は整っていても「申請方法がわからない」「もらえるお金を把握していない」ことで損をしているケースが少なくありません。
出産育児一時金(50万円)
出産育児一時金は、出産にかかる費用を軽減するために健康保険から支給される一時金です。
- 支給額:1児につき50万円(2023年4月〜、産科医療補償制度加算対象の場合。非加算の場合は48.8万円)
- 対象:健康保険または国民健康保険の被保険者(被扶養者も対象)
- 支給元:協会けんぽまたは健保組合
多くの病院では「直接支払制度」が利用できます。これは、出産育児一時金を健保から医療機関に直接支払う仕組みで、退院時に窓口で差額だけを精算すれば済みます。出産費用が50万円を下回った場合は、差額を請求できます。
出産する医療機関で「直接支払制度の合意書」にサインするだけです。手続きは非常に簡単ですが、出産する病院によっては対応していない場合もあるため、事前に確認しましょう。非対応の場合は、出産後に健保へ自分で申請します。
出典:厚生労働省「出産育児一時金の支給額・支払方法について」、全国健康保険協会(協会けんぽ)
出産手当金 — 標準報酬日額の2/3
出産手当金は、産前・産後休業中に給与の支払いがない(または減額される)場合に、健康保険から支給される給付金です。
- 支給額:標準報酬日額の2/3 × 日数
- 対象期間:産前42日(多胎は98日)+ 産後56日 = 最大98日間
- 支給元:協会けんぽまたは健保組合
計算方法(看護師・月給28万円の例)
月給28万円(標準報酬月額28万円)の看護師の場合で、具体的に計算してみましょう。
- 標準報酬日額 = 28万円 ÷ 30日 = 9,333円
- 1日あたりの支給額 = 9,333円 × 2/3 = 約6,222円
- 98日間の合計 = 6,222円 × 98日 = 約61万円
産前42日+産後56日の計98日間で、約61万円の出産手当金を受け取れます。なお、出産日が予定日より遅れた場合は、遅れた日数分も産前休業に含まれるため、支給日数が増えます。
標準報酬月額には、基本給のほか通勤手当なども含まれます。ただし、夜勤手当は産休に入る前の直近の標準報酬月額に反映済みのため、産休前に夜勤を減らすと標準報酬月額が下がり、出産手当金が減る可能性があります。産休直前の勤務調整には注意が必要です。
出典:全国健康保険協会(協会けんぽ)「出産手当金について」
育児休業給付金 — 67%と50%の2段階
育児休業給付金は、育休中の生活を支えるために雇用保険から支給される給付金です。非課税で、所得税も住民税もかかりません。
- 最初の180日間:休業開始時賃金日額の67%
- 181日目以降:休業開始時賃金日額の50%
- 上限額:賃金日額16,110円(2025年8月改定)
- 支給元:ハローワーク(雇用保険)
計算方法(看護師・月給28万円の例)
同じく月給28万円の看護師の場合を計算します。ここでの「賃金日額」は、育休開始前6か月間の賃金総額を180で割った金額です。
- 賃金日額 = 28万円 × 6か月 ÷ 180日 = 約9,333円
- 最初の180日間(月あたり)= 9,333円 × 30日 × 67% = 約18.8万円/月
- 181日目以降(月あたり)= 9,333円 × 30日 × 50% = 約14.0万円/月
育児休業給付金は非課税です。さらに育休中は社会保険料も免除されます。そのため、額面67%でも、手取りベースで見ると実質約80%に相当します。「育休に入ると収入が3分の2に減る」という印象がありますが、手取りで見ればそこまで下がらないのが実態です。
育児休業給付金の算出基礎となる「休業開始時賃金日額」には、育休前6か月間の夜勤手当も含まれます。看護師の場合、産休前に夜勤が減ると賃金日額が下がり、給付額にも影響します。妊娠がわかったら早めに勤務スケジュールを確認しましょう。
| 月給(額面) | 育休給付金(67%・月額) | 育休給付金(50%・月額) |
|---|---|---|
| 20万円 | 約13.4万円 | 約10.0万円 |
| 25万円 | 約16.8万円 | 約12.5万円 |
| 28万円 | 約18.8万円 | 約14.0万円 |
| 30万円 | 約20.1万円 | 約15.0万円 |
| 35万円 | 約23.5万円 | 約17.5万円 |
| 40万円 | 約26.8万円 | 約20.0万円 |
※上限額(賃金日額16,110円、2025年8月改定)を超える場合は上限で計算。出典:厚生労働省「育児休業給付について」、雇用保険法
【2025年新制度】出生後休業支援給付金で手取り10割
2025年4月に創設された「出生後休業支援給付金」は、育休取得を後押しするための新しい給付金です。従来の育児休業給付金に上乗せされる形で支給されます。
制度の概要
- 給付率:賃金日額の13%(育児休業給付金67% + 出生後休業支援給付金13% = 合計80%)
- 期間:最大28日間
- 条件:夫婦ともに14日以上の育休を取得すること
合計80%の給付に加え、育休中は社会保険料が免除され、育児休業給付金は非課税のため、手取りベースでは実質10割相当になります。
月給28万円の場合のシミュレーション
| 項目 | 金額(日額) | 28日間合計 |
|---|---|---|
| 育児休業給付金(67%) | 約6,253円 | 約17.5万円 |
| 出生後休業支援給付金(13%) | 約1,213円 | 約3.4万円 |
| 合計(80%) | 約7,467円 | 約20.9万円 |
出生後休業支援給付金を受け取るには、配偶者も14日以上の育休を取得する必要があります。ただし、ひとり親の場合や、配偶者が専業主婦(夫)の場合など、配偶者が育休を取得できない場合は、本人のみの育休取得で要件を満たします。パートナーと早めに育休スケジュールを相談しましょう。
育児時短就業給付金(2025年4月新設)
育休から復帰後に時短勤務をする場合、新たに「育児時短就業給付金」が支給されます。
- 給付率:時短中(時短後)の賃金の最大10%(賃金の減少幅に応じて逓減)
- 育休復帰後に時短勤務(所定労働時間の短縮)をした場合が対象
たとえば、月給28万円の看護師が時短勤務で月給22万円になった場合、時短中の賃金22万円の最大10%にあたる最大で約2.2万円が追加で支給されます(賃金の減少幅が小さいほど給付率は10%未満に逓減します)。復帰後の収入減を補う仕組みです。
出典:厚生労働省「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」(2024年成立、2025年4月施行)
社会保険料の免除
育休中の大きなメリットが、社会保険料の免除です。申出により、次の保険料が育休期間中は免除されます。
免除される保険料
| 保険料 | 育休中の扱い | 備考 |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 免除 | 事業主負担分も免除 |
| 厚生年金保険料 | 免除 | 免除期間も年金額に反映される |
| 雇用保険料 | 給与がなければ負担なし | 保険料は賃金に対して課されるため |
厚生年金保険料が免除されても、免除期間は「保険料を納付した期間」として扱われます。将来の年金額が減ることはありません。これは非常に重要なポイントです。
月給28万円の場合の免除額
標準報酬月額28万円の場合、毎月の社会保険料は概算で以下のとおりです。
- 健康保険料(本人負担):約14,000円/月
- 厚生年金保険料(本人負担):約25,620円/月
- 合計:約39,600円/月が免除
育休を1年間取得した場合、社会保険料の免除だけで約47.5万円の負担軽減になります。
社会保険料の免除は自動的に適用されるわけではなく、事業主を通じて年金事務所への届出が必要です。通常は勤務先の人事・総務が手続きしてくれますが、念のため「届出はしていただけますか」と確認しておくと安心です。
出典:日本年金機構「育児休業期間中の社会保険料免除」
育休中の住民税・ふるさと納税の注意点
育休中のお金で意外と盲点になるのが住民税です。
住民税は前年所得ベース
住民税は前年(1〜12月)の所得にもとづいて計算され、翌年6月から翌々年5月に徴収されます。つまり、育休中であっても、前年フルに働いていた分の住民税は発生します。
在職中は給与から天引き(特別徴収)されていた住民税ですが、育休中は給与がないため、普通徴収(自分で納付書で払う)に切り替わる場合があります。まとまった金額の納付書が届いて驚くケースがあるので、事前に把握しておきましょう。
育休中の住民税の扱いは勤務先によって異なります。特別徴収を継続する場合(勤務先が立て替え)と、普通徴収に切り替える場合があります。いずれの場合も住民税そのものは免除されません。育休に入る前に人事に確認しておきましょう。
ふるさと納税の上限額に注意
ふるさと納税の控除上限額は、その年の所得で決まります。育休中は収入が減るため、ふるさと納税の上限額も大幅に下がります。育児休業給付金は非課税なので、ふるさと納税の計算対象に含まれません。
育休に入る年は、フルに働いた月と育休の月が混在するため、上限額の見積もりが難しくなります。上限を超えると自己負担になるため、育休年のふるさと納税は控えめにするか、正確な所得が確定してから行うのが安全です。
詳しい上限額の計算方法はふるさと納税の記事をご覧ください。
医療職は「シフトに穴をあけられない」という責任感が強く、産休・育休の制度やお金を調べないまま我慢してしまう人が少なくありません。ですが産休・育休は働く人の権利で、給付金や社会保険料の免除など、知らないと損をする仕組みがそろっています。職場の雰囲気に差があるのは事実ですが、こうしたライフイベントに寛容な職場も確実に存在します。制度を正しく知ったうえで、必要なら働き方を見直したり、そうした職場への転職を前向きに考えるのも十分にありな選択です。
医療職ならではの注意点
医療職には、一般企業の会社員とは異なる特有の事情があります。産休・育休を取る際に知っておきたいポイントを整理します。
夜勤手当がなくなる影響
看護師をはじめ、多くの医療職は夜勤手当が月収に占める割合が大きいです。産休に入ると夜勤がなくなるため、産休前の数か月間で夜勤回数が減ると、出産手当金や育児休業給付金の算出基礎となる賃金が下がる可能性があります。
一方、日本看護協会の2024年調査では、夜勤免除の理由として「子どもの世話」が74.8%を占めています。妊娠中・育児中の夜勤免除は広く認められていますが、それが給付額に影響することは知っておくべきです。
復帰後の時短勤務と給付金
育休から復帰する際、時短勤務を選ぶ方が多いです。2025年4月に新設された育児時短就業給付金(時短中の賃金の最大10%)を受け取れるため、時短による収入減がある程度緩和されます。
ただし、時短勤務で標準報酬月額が下がると、将来の年金額にも影響します。この場合、「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」を届け出ることで、子が3歳になるまでの期間は、時短前の高い標準報酬月額で年金額を計算してもらえます。勤務先の人事に届出を依頼しましょう。
院内保育所の活用
医療機関の中には院内保育所を設けているところがあります。院内保育所は夜勤に合わせた夜間保育に対応しているケースも多く、復帰後の保育の選択肢として有力です。育休中に保育の情報収集をしておくと、スムーズに復帰計画を立てられます。
夜勤手当がなくなることで手取りが大きく変わる医療職だからこそ、産休・育休前に「自分の場合いくらもらえるのか」を具体的に計算しておくことが大切です。手取りの変化は手取りシミュレーターで確認できます。また、税金や控除の全体像は手取りの記事や節税対策の記事も参考にしてください。
もらい忘れチェックリスト(まとめ)
産休・育休でもらえるお金は種類が多く、申請先もバラバラです。もらい忘れがないよう、以下のチェックリストで確認しましょう。
| 給付・制度 | 金額の目安(月給28万円) | 申請先 | 確認 |
|---|---|---|---|
| 出産育児一時金 | 50万円 | 健保(直接支払制度なら病院で手続き) | |
| 出産手当金 | 約61万円(98日間) | 健保組合・協会けんぽ | |
| 育児休業給付金(67%) | 約18.8万円/月(最初180日) | ハローワーク(勤務先経由) | |
| 育児休業給付金(50%) | 約14.0万円/月(181日目〜) | ハローワーク(勤務先経由) | |
| 出生後休業支援給付金 | 約3.4万円(28日間) | ハローワーク(勤務先経由) | |
| 育児時短就業給付金 | 時短中の賃金の最大10% | ハローワーク(勤務先経由) | |
| 社会保険料免除 | 約39,600円/月 | 年金事務所(勤務先経由) | |
| 養育期間みなし措置 | 将来の年金額保護 | 年金事務所(勤務先経由) |
出産育児一時金(50万円)+ 出産手当金(約61万円)+ 育児休業給付金1年分(67% × 6か月 + 50% × 6か月 = 約197万円)+ 社会保険料免除(約47.5万円)= 総額で約355万円相当の経済的支援を受けられます。「育休中は収入がなくなる」のではなく、正しく申請すればかなりの部分がカバーされます。
多くの給付は勤務先を通じてハローワークや健保に申請しますが、すべて自動的に処理されるわけではありません。産休に入る前に人事・総務に「手続きの流れ」を確認し、必要な書類を把握しておくことが最も重要です。
本記事は2026年(令和8年)時点の制度にもとづく一般的な情報です。給付金額・要件は制度改正や個別の事情により異なる場合があります。正確な内容は、厚生労働省・全国健康保険協会(協会けんぽ)・ハローワーク等の公式情報、または勤務先の人事部門をご確認ください。本記事は労務・税務の助言ではありません。
主な出典:厚生労働省「育児休業給付について」「出産育児一時金について」、全国健康保険協会、雇用保険法、日本看護協会「2024年 病院看護実態調査」