当直料・オンコール手当の相場と仕組み
医師・看護師の「待機」と「当直」、お金はどう決まる?
「当直1回でいくらもらえるのか」「オンコールの待機手当はこんなに安くていいのか」――医療職にとって当直料やオンコール手当は、月々の収入を地味に、しかし確実に左右するお金です。ところが、その金額の決まり方は職種・病院規模・地域・診療科でかなり幅があり、しかも「宿直」「当直」「夜勤」「オンコール」が制度上は別物であるために、わかりにくくなっています。
この記事では、医師・看護師の当直料とオンコール(待機)手当の相場を、日本看護協会の調査や労働基準法の宿日直許可基準といった一次情報をもとに整理します。あわせて、宿直・当直と夜勤の違い、待機中や呼び出し時の扱い、労基法上の論点までを「相場と仕組み」に絞って解説します。税金・社会保険でどう引かれるかの詳細は 夜勤手当・当直手当の税金と社会保険 に、スポットの当直バイトの探し方・確定申告は スポット勤務・健診バイトの税金と確定申告 に譲ります。
当直料・待機手当は「1回いくら」の相場だけでなく、それが労働時間扱いの「夜勤」なのか、労働時間規制から外れる「宿日直」なのかで、割増賃金の有無も金額の妥当性も変わります。相場の目安は、看護師の二交替夜勤で1回約1.1万円、医師の常勤当直で1回1.5〜2万円前後、オンコール待機手当で1回1,000〜5,000円程度。ただしいずれも幅が大きく、額面から税・社会保険で約2割引かれた手取りで考えるのが実際的です。
まず用語を整理|宿直・当直・夜勤・オンコールは別物
金額の話に入る前に、混同されやすい4つの言葉を整理します。ここがあいまいなまま「相場はいくら?」と比べても、正しく比較できません。
| 区分 | 中身 | 労働時間の扱い | 深夜割増(22〜5時) |
|---|---|---|---|
| 夜勤 | 日中と同等の業務を夜間に行う。二交替・三交替など | 所定労働時間内(働いている時間) | 原則あり(25%以上) |
| 宿直・当直 | 夜間に病院に泊まり、原則ほとんど労働しない待機。定時巡回や軽微な対応が中心 | 許可があれば労働時間規制の適用除外 | 許可の範囲では原則なし |
| 日直 | 休日の日中に同様の待機を行う | 同上 | ― |
| オンコール | 自宅等で待機し、呼び出されたら出動する | 拘束の程度しだい(後述) | 出動して働いた分は対象 |
出典:厚生労働省「医師、看護師等の宿日直許可基準について」(令和元年7月1日 基発0701第8号)(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6286&dataType=1&pageNo=1)/労働基準法第37条・第41条
ポイントは、「夜勤」は働いている時間そのものなので深夜割増(22時〜5時は通常賃金の25%以上)が付くのに対し、「宿直・当直」は労働基準監督署長の許可(宿日直許可)を受けていれば労働時間規制の適用除外になるという点です。医療現場では夜間の泊まり勤務をまとめて「当直」と呼ぶ習慣がありますが、その実態が「ほとんど労働しない待機」なのか「日中と同じように働いている」のかで、法律上の扱いとお金の決まり方がまったく違ってきます。
看護師の夜勤・当直手当の相場
看護師の場合、夜間の泊まり勤務の多くは制度上「夜勤」(労働時間内)にあたり、これに対して夜勤手当が支給されます。日本看護協会「2023年 病院看護実態調査報告書」によると、1回あたりの夜勤手当の平均は次のとおりです。
| 勤務形態 | 1回あたりの夜勤手当(平均) |
|---|---|
| 三交替制・準夜勤 | 約4,234円 |
| 三交替制・深夜勤 | 約5,199円 |
| 二交替制・夜勤(長時間) | 約11,368円 |
出典:日本看護協会「2023年 病院看護実態調査 報告書」(https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/100.pdf)
二交替制は1回の拘束時間が長い分(16時間前後)、手当も高くなる傾向があります。注意したいのは、この手当に深夜割増賃金を含めて支給している職場と、割増とは別に定額で夜勤手当を設定している職場が混在していることです。同じ「夜勤手当1万円」でも、中身が割増込みか別建てかで実質の価値が変わります。求人票や給与明細を見るときは、「定額手当+深夜割増」がどう構成されているかまで確認しましょう。
夜勤手当は同じ二交替でも、病院規模・地域・夜勤回数で実額が動きます。看護師の年収は夜勤回数の影響が大きいため、職場を比べるときは「1回いくら×月何回」で年間の夜勤収入を概算し、基本給と合わせて見るのが現実的です。地域差の全体像は 都道府県別の給与差 も参考になります。
医師の当直料の目安
医師の場合、夜間の泊まり勤務は「当直(宿直)」と呼ばれることが多く、その扱いは宿日直許可の有無で大きく変わります。相場は「常勤医が自院で行う当直」と「外部のスポット当直バイト」で水準が異なる点を押さえておきましょう。なお、医師の当直・バイト報酬には公的な賃金統計がないため、以下はいずれも医師向け求人媒体の集計値からの目安です。
| 当直の種類 | 1回あたりの目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 常勤医が自院で行う当直手当 | 約1.5万〜2万円 | 病院規模・地域で幅。基本給とは別建ての手当が一般的 |
| スポット当直(病棟管理中心・救急対応少) | 約3万〜4万円台 | いわゆる「寝当直」に近い案件の目安 |
| スポット当直(救急対応がメイン) | 約6万〜8万円 | 多忙・対応負荷が高いほど高額 |
| 医師不足地域の公立病院など | 1回 10万円超の例も | 交通費全額支給など条件が上振れするケースがある |
出典:マイナビDOCTOR「医師の寝当直とは?」(https://doctor.mynavi.jp/column/doctor-duty-sleep/)ほか医師向け求人媒体の集計値をもとにした目安(公的統計に専用区分はない)
常勤医が自院で行う当直は、給与体系の一部として「当直手当1回◯円」と定められているのが一般的で、1.5万〜2万円前後が一つの目安です。一方で、外部の病院に出向くスポット当直は、病棟管理が中心の「寝当直」で3万〜4万円台、救急対応がメインだと6万〜8万円ほど、地域や条件によってはさらに高額になります。診療科でも幅があり、救急・産科のように夜間の呼び出しが多い領域は手当が厚めに設定されることがあります。スポット当直の探し方や報酬の確定申告については スポット勤務・健診バイトの税金と確定申告 で扱っています。
当直手当が著しく低い場合、それは病院が宿日直許可を取得していて「ほとんど労働しない待機」を前提にしているケースがあります。逆に、実態として夜通し救急対応している(=実質は夜勤)のに当直手当しか出ていない場合、本来は時間外・深夜の割増賃金が必要になる可能性があります。金額の高低だけでなく、「許可された宿直なのか、実態は夜勤なのか」を見極めることが大切です。
オンコール(待機)手当と呼び出し時の扱い
オンコールは、自宅などで待機し、電話や呼び出しがあれば出動する勤務形態です。訪問看護や手術室、産科、透析などで広く使われています。手当は大きく「待機しているだけの手当」と「実際に呼び出された・出動したときの手当」に分かれます。
待機手当の相場
待機しているだけのオンコール手当は、1回あたり1,000〜5,000円程度が一般的な相場です。分布で見ると「1,000〜2,000円未満」が約34%ともっとも多く、次いで「2,000〜3,000円未満」が約31%と、低めの水準に集中しています。病院や介護施設より、訪問看護ステーションのほうがやや高い傾向があるとされます。平日と土日祝で金額を変えたり、2人体制でメイン担当とサブ担当で金額を分けたりする施設もあります。
出典:マイナビ看護師「オンコールとは?平均回数・手当の相場・過ごし方などを解説」(https://kango.mynavi.jp/contents/nurseplus/career_skillup/20210915-2135212/)/分布は全国訪問看護事業協会の調査をもとにした目安
呼び出し・出動時の扱い
実際に電話対応をしたり職場へ駆けつけたりした場合は、別途出動手当・緊急訪問手当が支払われるのが一般的です。1回の出動につき5,000〜10,000円といった固定額のところもあれば、実際に働いた時間を時間外労働として割増賃金で支払うところもあります。深夜(22時〜5時)に対応すれば深夜割増も加わります。出動の都度きちんと割増で計算されるか、固定額で頭打ちになっていないかは、確認しておきたいポイントです。
待機手当が同じ2,000円でも、ほとんど呼ばれない部署と、月の半分は深夜に呼び出される部署では、拘束のつらさも実質の時給もまったく違います。手当の額面だけでなく、「月何回の待機か」「実際に呼ばれる頻度はどのくらいか」をセットで見ると、職場ごとの負担を正しく比べられます。
労働基準法上の論点|宿日直許可と待機時間の労働時間性
当直料・オンコール手当の「妥当性」を判断するうえで欠かせないのが、労働基準法上の2つの論点です。難しく見えますが、要点は「その時間は労働時間なのか」という一点に集約されます。
宿日直許可(労基法41条3号)
労働基準法第41条第3号は、「監視又は断続的労働に従事する者で、行政官庁の許可を受けたもの」について、労働時間・休憩・休日の規定を適用除外とすると定めています。医療機関の宿直・当直がこれにあたる場合、労働基準監督署長の許可(宿日直許可)を受ければ、その範囲では時間外・深夜の割増賃金が原則発生しません。許可の主な基準は次のとおりです。
- 勤務内容:原則ほとんど労働する必要がない勤務であること。定時巡回、少数の要注意患者の検脈・検温など、特殊な措置を要しない軽度・短時間の業務に限る。
- 手当の最低額:宿日直手当が、同種業務に従事する労働者の1人1日平均賃金額の3分の1を下回らないこと。
- 回数の上限:宿直は週1回、日直は月1回が限度(実態に応じ例外あり)。
- 睡眠設備:宿直には相当の睡眠設備を設け、夜間に十分な睡眠時間を確保できること。
出典:厚生労働省「医師、看護師等の宿日直許可基準について」(令和元年7月1日 基発0701第8号)(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6286&dataType=1&pageNo=1)/一般的な宿日直許可基準(昭和22年9月13日 発基第17号 ほか)
つまり、宿日直許可は「ほとんど労働しない待機」を前提にした例外的な扱いです。許可があっても、夜間に通常の業務(救急対応など)が頻繁に発生する実態であれば、その時間については本来の労働として割増賃金の対象になり得ます。医師の働き方改革(2024年4月施行の時間外労働上限規制)でも、この宿日直許可の取り扱いが大きな論点になりました。
オンコール待機時間は労働時間か
オンコールの待機時間が「労働時間」にあたるかは、待機中にどれだけ拘束されているかで判断されます。判例上、労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指し、待機していても労働からの解放が保障されていなければ労働時間にあたり得るとされています(大星ビル管理事件・最高裁平成14年2月28日判決)。近年は、研修医のオンコール待機時間等の労働時間該当性が争われた裁判例(医療法人社団誠馨会事件・千葉地裁令和5年2月22日判決)もあり、待機の自由度や呼び出し頻度が重視される傾向です。
自宅で過ごし、呼ばれることがまれで、行動の自由が大きいオンコールであれば、待機手当(少額)でまかなう設計でも問題になりにくい一方、行動が強く制約され頻繁に対応を求められる待機は、待機時間そのものが労働時間と評価される可能性があります。「待機手当が安すぎるのでは」と感じたときは、自分の待機がどちらに近いかを考えてみるとよいでしょう。
当直料・夜勤手当・オンコール手当はいずれも課税対象の給与であり、社会保険料と税金が引かれます。手取りはおおむね額面の8割前後が目安で、年収が上がるほど手取り率はやや下がります。手当の税・社会保険の具体的な扱いは 夜勤手当・当直手当の税金と社会保険 で詳しく解説しています。まずは 手取りシミュレーター で、手当込みの年収から実際にいくら残るかを確かめてみてください。
当直・夜勤・オンコール手当を含めた年収から、税・社会保険を引いた手取りを試算できます → 手取りを計算 →
当直料・オンコール手当を見るときのチェックポイント
相場を踏まえて、自分の手当が妥当かを判断するときのポイントをまとめます。
- 枠組みを確認:その泊まり勤務は「夜勤(労働時間)」か「宿日直許可のある当直」か。許可の有無で割増の扱いが変わる。
- 中身の構成:手当が「定額のみ」か「定額+深夜割増」か。同じ金額でも実質が違う。
- 回数と頻度:1回いくらだけでなく、月何回か、オンコールなら実際に呼ばれる頻度はどのくらいか。
- 出動時の扱い:オンコールで呼ばれたら別途手当や割増が付くか。固定額で頭打ちになっていないか。
- 手取りで比較:手当は課税対象。職場を比べるときは額面ではなく手取りベースで。
「いまの当直料・待機手当は相場に合っているだろうか」と感じたら、職場の条件を見直すのも選択肢です。職種別の転職サービスの選び方は 転職サイトの選び方 で中立に整理しています。
まとめ
- 看護師の夜勤手当は1回あたり、三交替準夜 約4,234円/深夜 約5,199円/二交替 約11,368円が平均(日本看護協会2023年調査)。
- 医師の当直料は、常勤の自院当直で1回1.5万〜2万円前後、スポット当直は寝当直で約3万〜4万円台・救急で約6万〜8万円が目安(求人媒体の集計値。公的統計に専用区分はない)。地域・診療科・救急対応の有無で大きく上下する。
- オンコール待機手当は1回1,000〜5,000円程度(低めに集中)。呼び出し・出動時は別途手当または割増賃金が付くのが一般的。
- 宿直・当直は宿日直許可があれば労働時間規制の適用除外。手当は1人1日平均賃金の3分の1以上、宿直は週1回が限度などの基準がある。
- オンコール待機時間が労働時間にあたるかは、拘束の程度で判断される(大星ビル管理事件など)。
- 手当はすべて課税対象。額面ではなく手取りで比べる。
相場はあくまで出発点です。手取りシミュレーター に手当込みの年収を入れて、「実際にいくら残るのか」を確かめるところから始めてみてください。税・社会保険の細かい扱いは 夜勤手当・当直手当の税金と社会保険、手取りの全体像は 手取りはなぜ額面の8割なのか をあわせてどうぞ。
本記事の相場は、日本看護協会の調査・医師向け求人媒体の集計値・厚生労働省の宿日直許可基準などをもとにした全国の目安であり、2026年(令和8年)時点の一般的な情報です。実際の当直料・夜勤手当・オンコール手当は勤務先や個々の状況、雇用契約・就業規則で異なります。本記事は税務・労務の個別助言ではありません。正確な金額や法的な扱いは、勤務先・一次情報(厚生労働省・労働基準監督署等)・専門家にご確認ください。