年金のしくみと受給額
老齢年金はいくらもらえる?医療職の年金を完全解説
「年金って結局いくらもらえるの?」「看護師を定年まで続けたら、老後の生活は大丈夫?」——毎月の給与明細で引かれている厚生年金保険料。決して小さくない金額が天引きされているのに、将来いくら受け取れるのか把握していない人は多いのではないでしょうか。
公的年金は「2階建て」の構造になっており、1階部分の国民年金(基礎年金)と、2階部分の厚生年金(報酬比例部分)を合算した金額が、老後に受け取る年金額です。病院や施設に常勤で勤めている医療職であれば、両方に加入しています。
この記事では、年金制度の全体像をつかんだうえで、医療職の職種別に「老後の年金はいくらになるのか」を具体的にシミュレーションします。繰上げ・繰下げ受給の損得、障害年金・遺族年金の基礎知識、iDeCo・企業型DCによる上乗せまで、年金にまつわる知識を一本にまとめました。
自分の年金がいくらになるか、ざっくり計算できるようになること。繰上げ・繰下げの判断基準を知り、「年金だけで足りない分をどう備えるか」の出発点を持てる状態を目指します。
公的年金の2階建て構造
日本の公的年金制度は、国民年金(1階)と厚生年金(2階)の2階建て構造です。どちらに加入しているかは、働き方によって決まります。
| 国民年金(1階) | 厚生年金(2階) | |
|---|---|---|
| 加入者 | 日本に住む20〜59歳の全員 | 会社員・公務員(第2号被保険者) |
| 保険料 | 月額 16,980円(2025年度) | 標準報酬月額 × 18.3%(労使折半 → 本人9.15%) |
| 受け取る年金 | 老齢基礎年金 | 老齢厚生年金(報酬比例部分) |
| 年金額の決まり方 | 加入期間に比例(最大40年) | 給料 × 加入月数に比例 |
病院・クリニック・施設に常勤で勤務する医療職は「第2号被保険者」として、国民年金と厚生年金の両方に自動加入しています。給与明細に記載される「厚生年金保険料」の中に、国民年金分も含まれています。
自営で開業している医師・開業薬剤師は「第1号被保険者」のため、厚生年金に加入できず、国民年金(1階部分)のみです。老後の年金額が大幅に少なくなるため、iDeCoや国民年金基金などで自分で上乗せする必要があります。
老齢基礎年金 — 全員がもらう1階部分
老齢基礎年金は、国民年金に加入していた期間に応じて受け取る年金です。全額を受け取るには、20歳から60歳までの40年間(480月)すべて保険料を納めている必要があります。
2025年度の満額
老齢基礎年金の満額は、年額 816,000円(月額 68,000円)です(2025年度)。
加入期間が40年に満たない場合は、その分だけ減額されます。計算式は以下のとおりです。
老齢基礎年金 = 816,000円 × 保険料納付済月数 ÷ 480月
例:大学院修了後25歳から60歳まで35年間(420月)加入した場合
816,000円 × 420 ÷ 480 = 年額 714,000円(月額 59,500円)
20歳以降の学生期間に「学生納付特例」を利用して保険料を免除していた場合、その期間は受給資格期間(10年)にはカウントされますが、年金額の計算には反映されません。追納(10年以内に後から納めること)をしないと、満額から差し引かれます。
受給資格期間
老齢基礎年金を受け取るには、保険料納付済期間と免除期間等を合わせて10年以上が必要です(2017年8月に25年から10年に短縮)。常勤の医療職であれば、通常はこの要件を満たします。
老齢厚生年金 — 給料に比例する2階部分
老齢厚生年金の報酬比例部分は、在職中の給料と加入期間に基づいて計算されます。基礎年金が「定額」なのに対し、厚生年金は「給料が高いほど・長く働くほど多い」のが特徴です。
計算式(2003年4月以降の加入期間)
報酬比例部分 = 平均標準報酬額 × 加入月数 × 0.005481
「平均標準報酬額」は、加入期間中の標準報酬月額(毎月の給料を等級に当てはめた額)と標準賞与額の総額を加入月数で割った平均です。
標準報酬月額とは
標準報酬月額は、毎月の給料(基本給+各種手当を含む)を1〜32等級に区分したもので、厚生年金の保険料計算と年金額計算の両方に使われます。上限は65万円(32等級)で、これを超える給料をもらっていても65万円として計算されます。
| 標準報酬月額の例 | 等級 | 対応する報酬月額 |
|---|---|---|
| 20万円 | 15等級 | 195,000〜210,000円 |
| 30万円 | 20等級 | 290,000〜310,000円 |
| 41万円 | 25等級 | 395,000〜425,000円 |
| 50万円 | 28等級 | 485,000〜515,000円 |
| 65万円(上限) | 32等級 | 635,000円以上 |
看護師の夜勤手当や医師の当直手当も標準報酬月額に含まれます。つまり、夜勤が多い月は標準報酬月額が上がり、将来の年金額にもプラスに働きます。詳しくは 夜勤手当・当直手当の税金と社会保険 をご覧ください。
加給年金 — 厚生年金の「家族手当」
厚生年金に20年以上加入した人が65歳で年金を受け取り始めるとき、65歳未満の配偶者または18歳未満の子がいる場合、加給年金が加算されます。金額は配偶者で年額 約39万円(2025年度、特別加算込み)。配偶者が65歳になると打ち切られ、代わりに配偶者の老齢基礎年金に「振替加算」が付きます。
医療職の年金はいくら? — 職種別シミュレーション
実際に医療職の年金がいくらになるのか、代表的な職種でシミュレーションしてみましょう。いずれも2025年度の制度で、60歳まで勤務し65歳から受給するケースです。
| 職種 | 勤務年数 | 平均標準 報酬月額 | 報酬比例部分 (年額) | 基礎年金 (年額) | 合計 (月額) |
|---|---|---|---|---|---|
| 看護師 | 38年(22〜60歳) | 30万円 | 約75万円 | 約78万円 | 約12.8万円 |
| 薬剤師 | 36年(24〜60歳) | 33万円 | 約78万円 | 約73万円 | 約12.6万円 |
| 理学療法士 | 38年(22〜60歳) | 28万円 | 約70万円 | 約78万円 | 約12.3万円 |
| 勤務医 | 34年(26〜60歳) | 50万円 | 約112万円 | 約69万円 | 約15.1万円 |
| 勤務医(高収入) | 34年(26〜60歳) | 65万円(上限) | 約145万円 | 約69万円 | 約17.9万円 |
※ 報酬比例部分 = 平均標準報酬額 × 加入月数 × 0.005481 で概算。基礎年金は加入年数に応じた比例減額。賞与分は簡略化のため標準報酬月額に含めて計算。実際の受給額は「ねんきん定期便」または「ねんきんネット」で確認してください。
看護師の計算例を詳しく見る
看護師(22歳で就職、60歳まで38年間勤務、平均標準報酬月額30万円)の場合を追ってみます。
- 報酬比例部分:30万円 × 456月 × 0.005481 = 約749,900円(年額)
- 老齢基礎年金:816,000円 × 456月 ÷ 480月 = 約775,200円(年額)
- 合計:749,900 + 775,200 = 約1,525,100円(年額) → 月額 約12.7万円
手取りで30万円前後だった看護師が、退職後は月12〜13万円。これが日本の公的年金の現実です。「足りない分をどう埋めるか」を早めに考える必要があることがわかります。
上記は額面の年金額です。実際にはここから所得税・住民税・国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料)・介護保険料が差し引かれます。手取りは額面の85〜90%程度になることが多いです。
繰上げ・繰下げ受給 — いつもらい始めるのがお得?
老齢年金は原則65歳から受給が始まりますが、60〜64歳に前倒し(繰上げ)することも、66〜75歳に後ろ倒し(繰下げ)することもできます。受給開始時期によって、年金額が一生涯変わります。
繰上げ受給(60〜64歳)
65歳より前に受け取り始めると、1か月あたり0.4%減額されます。減額率は一生涯変わりません。
| 受給開始年齢 | 繰上げ月数 | 減額率 | 65歳時に月13万円の場合 |
|---|---|---|---|
| 60歳0か月 | 60か月 | −24.0% | 月 約9.9万円 |
| 61歳0か月 | 48か月 | −19.2% | 月 約10.5万円 |
| 62歳0か月 | 36か月 | −14.4% | 月 約11.1万円 |
| 63歳0か月 | 24か月 | −9.6% | 月 約11.8万円 |
| 64歳0か月 | 12か月 | −4.8% | 月 約12.4万円 |
60歳で繰上げると月額が約3万円減り、累計の受取総額が65歳開始を下回る「損益分岐点」はおおむね80歳10か月前後です。平均寿命(男性81歳・女性87歳)を考えると、健康に問題がなければ繰上げは慎重に判断すべきです。
繰下げ受給(66〜75歳)
65歳より後に受け取り始めると、1か月あたり0.7%増額されます。最大75歳まで繰り下げると、増額率は84%に達します。
| 受給開始年齢 | 繰下げ月数 | 増額率 | 65歳時に月13万円の場合 |
|---|---|---|---|
| 66歳0か月 | 12か月 | +8.4% | 月 約14.1万円 |
| 67歳0か月 | 24か月 | +16.8% | 月 約15.2万円 |
| 68歳0か月 | 36か月 | +25.2% | 月 約16.3万円 |
| 70歳0か月 | 60か月 | +42.0% | 月 約18.5万円 |
| 75歳0か月 | 120か月 | +84.0% | 月 約23.9万円 |
70歳まで繰り下げた場合、累計の受取総額が65歳開始を上回る損益分岐点はおおむね81歳10か月前後。75歳まで繰り下げた場合は86歳10か月前後です。
繰下げは「長生きリスクへの保険」です。65〜70歳の間の生活費を退職金や貯蓄で賄えるなら、繰下げによって70歳以降の年金を手厚くするのは合理的な選択です。一方、繰下げ中は年金が入ってこないため、その間の収入をどう確保するかが課題になります。
繰下げで年金額が増えても、税金・社会保険料も増えるため、手取りの増加率は額面ほど大きくありません。また、加給年金は繰下げ待機中は受け取れません。配偶者が65歳未満の場合、加給年金を受け取れる期間との兼ね合いも考慮が必要です。
障害年金・遺族年金 — 知っておきたい「もしも」の備え
年金は「老後のためのもの」というイメージが強いですが、障害年金と遺族年金は現役世代のうちから受け取る可能性がある、いわば「もしもの保険」です。
障害年金
病気やケガで一定の障害状態になったとき、障害等級に応じて年金が支給されます。
| 障害基礎年金 | 障害厚生年金 | |
|---|---|---|
| 対象者 | 国民年金加入者 | 厚生年金加入者 |
| 1級 | 年額 約102万円+子の加算 | 報酬比例部分 × 1.25 +配偶者加給 |
| 2級 | 年額 約82万円+子の加算 | 報酬比例部分 +配偶者加給 |
| 3級 | (支給なし) | 報酬比例部分(最低保障あり) |
厚生年金に加入している医療職は、1〜3級すべてで障害厚生年金を受け取れます(国民年金のみの場合は1・2級のみ)。初診日に厚生年金に加入していることと、保険料の納付要件を満たしていることが条件です。
医療職は業務上のケガだけでなく、うつ病やがんなどの疾病でも対象になりえます。「自分には関係ない」と思わず、制度の存在を知っておくことが大切です。
遺族年金
被保険者が亡くなったとき、残された家族に支給される年金です。
| 遺族基礎年金 | 遺族厚生年金 | |
|---|---|---|
| 対象遺族 | 子のある配偶者、または子 | 配偶者、子、父母、孫、祖父母 |
| 年金額 | 約82万円+子の加算(1人約23万円) | 死亡した人の報酬比例部分の3/4 |
| 支給期間 | 末子が18歳の年度末まで | 配偶者は原則一生涯 |
遺族厚生年金は、亡くなった人の報酬比例部分の3/4が支給されます。厚生年金に加入中の死亡の場合、加入月数が300月未満でも300月とみなして計算される最低保障があります。
「もしものとき家族にいくら残せるか」を考える際、まず遺族年金の額を把握してから、不足分を民間の生命保険で補うのが合理的です。公的保障を知らずに高額な保険に入ると、保険料の払いすぎになりかねません。
iDeCo・企業型DCは3階部分 — 自分で上乗せする年金
公的年金の2階建てだけでは老後の生活費に不足する場合、3階部分として自分で上乗せする制度があります。代表的なのがiDeCo(個人型確定拠出年金)と企業型DC(企業型確定拠出年金)です。
| iDeCo | 企業型DC | |
|---|---|---|
| 掛金の出し方 | 自分で拠出 | 会社が拠出(+マッチング拠出で自分でも上乗せ可) |
| 掛金上限(会社員) | 月2万円(2024年12月〜) | 月5.5万円(企業年金なしの場合) |
| 税制メリット | 掛金が全額所得控除、運用益非課税、受取時に退職所得控除 or 公的年金等控除 | 同左 |
| 受取開始 | 60歳〜75歳 | 60歳〜75歳 |
iDeCoの最大のメリットは掛金が全額所得控除になる点です。たとえば年収500万円の看護師が月2万円(年24万円)をiDeCoに拠出すると、所得税・住民税の合計で年間約4.8万円の節税になります。30年間続ければ節税額だけで約144万円です。
2024年12月の法改正により、企業型DCに加入している人のiDeCo拠出上限額が引き上げられました。詳細は 企業型DC・iDeCo上限改正ガイド をご覧ください。NISAとの使い分けについては NISA・iDeCo入門 で解説しています。
多くの病院・施設では退職金制度があり、これも老後資金の一部です。退職金を一時金で受け取るか年金で受け取るかで税負担が変わります。詳しくは 退職金|一時金 vs 年金 を参照してください。
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まとめ
- 公的年金は国民年金(基礎年金)+厚生年金(報酬比例部分)の2階建て。常勤の医療職は両方に加入している
- 老齢基礎年金の満額は月68,000円(2025年度)。40年加入で満額。学生時代の未納期間があると減額される
- 老齢厚生年金の報酬比例部分は「平均標準報酬額 × 加入月数 × 0.005481」で計算。給料が高く長く働くほど多い
- 看護師38年勤務・平均標準報酬月額30万円の場合、基礎年金と合わせて月約13万円。手取りは11〜12万円程度
- 繰上げ受給は1か月あたり0.4%減額(60歳で−24%)、繰下げ受給は1か月あたり0.7%増額(70歳で+42%、75歳で+84%)
- 障害年金(1〜3級)・遺族年金(報酬比例部分の3/4)は現役世代の「もしもの保険」。加入しているだけで保障がある
- 公的年金だけでは不足する分はiDeCo・企業型DC(3階部分)で上乗せ。掛金が全額所得控除になる節税メリットも大きい
年金額は「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で自分の見込額を確認できます。ざっくりでも将来の年金額を把握しておけば、「あといくら足りないか」が見え、iDeCoや貯蓄、資産運用で備えるべき金額が明確になります。
節税の全体像は 医療職の節税対策すべて、資産形成の基本は NISA・iDeCo入門 もあわせてご覧ください。
よくある質問
看護師や医師の年金は、将来いくらもらえますか?
常勤の医療職なら、公的年金の目安は月12〜18万円程度です。この記事の試算(2025年度の制度にもとづく概算)では、看護師(38年勤務・平均標準報酬月額30万円)で月約12.8万円、勤務医(34年勤務・同50万円)で月約15.1万円になります。ここから税金・社会保険料が引かれ、手取りは額面の85〜90%程度になる点にも注意が必要です。正確な見込額は「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認できます。
年金の繰下げ受給は、何歳から受け取るのが得ですか?
何歳まで生きるかで損得が変わるため一概には言えませんが、70歳まで繰り下げた場合の損益分岐点はおおむね81歳10か月前後です。繰り下げると年金は1か月あたり0.7%増え、70歳開始で+42%、75歳開始で+84%になります。65〜70歳の生活費を退職金や貯蓄で賄えるなら、「長生きリスクへの保険」として合理的な選択肢です。ただし繰下げ待機中は加給年金を受け取れないなどの注意点もあります。
iDeCoと厚生年金は両方もらえますか?
はい、両方受け取れます。iDeCo・企業型DCは国民年金・厚生年金の上に自分で上乗せする「3階部分」であり、加入しても公的年金が減ることはありません。掛金は全額所得控除になるため、たとえば年収500万円の看護師が月2万円を拠出すると所得税・住民税で年間約4.8万円の節税になる計算です。詳しくは NISA・iDeCo入門 をご覧ください。
学生時代に払っていない年金は、追納したほうがいいですか?
満額の年金を受け取りたいなら、追納する価値があります。学生納付特例の期間は受給資格期間(10年)には数えられますが年金額には反映されず、追納しないと老齢基礎年金の満額から差し引かれます。追納できるのは10年以内と期限があるため、就職して収入が安定したら早めに検討しましょう。
転職すると年金は減りますか?
常勤から常勤へブランクなく移るなら、基本的に減りません。厚生年金の加入記録は勤務先が変わっても通算され、年金額は平均標準報酬額と加入月数に比例して計算されるためです。ただし退職から次の入職まで空白期間があると、その間は厚生年金に加入できず、将来の年金額がその分少なくなります。また、転職後に給料が下がった場合は、その期間分の報酬比例部分が小さくなります。退職時の手続きは 退職後の社会保険手続き にまとめています。
ねんきん定期便はどこを見ればいいですか?
まず「これまでの加入実績に応じた年金額」(50歳未満の場合)または「老齢年金の見込額」(50歳以上の場合)を確認しましょう。あわせて、加入期間や標準報酬月額の記録に漏れ・誤りがないかのチェックも大切です。より詳しい試算は「ねんきんネット」ででき、当サイトの年金受給額シミュレーターでも概算を確認できます。
本記事は2026年(令和8年)の制度にもとづく一般的な情報です。老齢基礎年金の満額は日本年金機構「令和7年4月分からの年金額等」、厚生年金の計算式は厚生年金保険法43条(報酬比例部分の乗率0.005481は2003年4月以降の被保険者期間に適用)、繰上げ・繰下げの増減率は国民年金法附則・厚生年金保険法附則、障害年金・遺族年金は日本年金機構の制度解説によります。個別の年金見込額は「ねんきん定期便」または「ねんきんネット」でご確認ください。本記事は年金に関する助言ではありません。