社会保険のしくみ入門
健康保険・年金・雇用保険、給料から引かれるお金の正体
毎月の給料明細を見ると、額面と手取りの差に驚いた経験はありませんか。「健康保険」「厚生年金」「雇用保険」——これらの天引き項目が何のために、いくら引かれているのか、正確に説明できる人は意外と少ないものです。
医療職は社会保険の「給付を受ける側」にも立ちやすい仕事です。夜勤明けの体調不良で長期休職になったとき、出産・育休で収入が途切れるとき、あるいは転職の合間に失業給付を受けるとき――自分が払っている保険料の中身を知っていれば、使える制度を見落としません。
この記事では、病院・クリニックで働く常勤職員が加入する社会保険5制度のしくみを、保険料率・給付内容・給料明細の読み方まで一つずつ解説します。
社会保険の5制度(健康保険・厚生年金・雇用保険・介護保険・労災保険)の保険料と主な給付を理解し、給料明細の天引き額を自分で確認できるようになること。
社会保険とは何か — 「保険」が5つある
「社会保険」は、国が運営する公的保険制度の総称です。会社員・公務員として働く人が加入する社会保険は、大きく5つに分かれます。
| 制度 | 何に備えるか | 保険料の負担 |
|---|---|---|
| 健康保険 | 病気・ケガ・出産 | 労使折半 |
| 厚生年金保険 | 老後・障害・死亡 | 労使折半 |
| 雇用保険 | 失業・育休・教育訓練 | 労使で分担(本人負担は少なめ) |
| 介護保険 | 要介護状態 | 労使折半(40歳以上) |
| 労災保険 | 業務上・通勤途上の災害 | 全額事業主負担 |
このうち給料明細に天引きとして現れるのは、労災保険を除く4つです。労災保険は全額を事業主(病院・法人)が負担するため、あなたの給料からは引かれません。以下、給料に影響する4制度を順番に見ていきます。
「社会保険料」とひとくくりにされがちですが、中身は5つの独立した保険です。それぞれ保険料率も給付も異なるため、分けて理解することが大切です。手取りの全体像は 手取りはなぜ額面の8割なのか もあわせてご覧ください。
健康保険 — 3割負担だけじゃない給付
医療職がもっとも身近に感じる保険がこれです。「窓口3割負担」は知っていても、それ以外の給付を使いこなせていない人は多くいます。
保険料率
多くの民間病院の職員は協会けんぽ(全国健康保険協会)に加入しています。保険料率は都道府県ごとに異なり、全国平均は約10%です。これを労使で折半するため、本人負担は約5%になります。
たとえば標準報酬月額28万円の場合、健康保険料の本人負担は月額約14,000円です(都道府県により数百円の差あり)。
主な給付
| 給付 | 内容 |
|---|---|
| 療養の給付 | 医療費の自己負担が3割(70歳未満) |
| 高額療養費 | 1か月の自己負担が上限額を超えた分を払い戻し(後述) |
| 傷病手当金 | 業務外の病気・ケガで連続3日以上休んだ場合、4日目から標準報酬日額の2/3を最長1年6か月支給 |
| 出産手当金 | 出産日前42日〜出産後56日の間、標準報酬日額の2/3を支給 |
| 出産育児一時金 | 1児につき50万円(2023年4月〜) |
| 埋葬料 | 被保険者の死亡時に5万円 |
傷病手当金は、夜勤や身体的負荷の多い医療職にとって重要なセーフティネットです。たとえば標準報酬月額28万円の人が病気で休職した場合、1日あたり約6,220円(=28万÷30×2/3)が最長1年6か月支給されます。産休・育休のお金については 産休・育休のお金ガイド で詳しく解説しています。
高額療養費制度の自己負担上限
医療費が高額になった場合、1か月の自己負担額に上限が設けられています。70歳未満の場合、所得に応じて5つの区分があります。
| 区分 | 年収の目安 | 1か月の自己負担上限額 |
|---|---|---|
| ア | 約1,160万円超 | 252,600円 +(医療費 − 842,000円)× 1% |
| イ | 約770万〜1,160万円 | 167,400円 +(医療費 − 558,000円)× 1% |
| ウ | 約370万〜770万円 | 80,100円 +(医療費 − 267,000円)× 1% |
| エ | 約370万円以下 | 57,600円 |
| オ | 住民税非課税 | 35,400円 |
出典:全国健康保険協会「高額な医療費を支払ったとき」
多くの医療職は区分ウに該当します。たとえば医療費が100万円かかった場合、自己負担は 80,100 +(1,000,000 − 267,000)× 1% = 87,430円 です。直近12か月で3回以上高額療養費に該当すると、4回目からは「多数回該当」として上限が44,400円に下がります。
厚生年金保険 — 老後・障害・遺族の3本柱
社会保険料の中でもっとも大きな金額を占めるのが厚生年金です。「老後の年金」のイメージが強いですが、実は3種類の年金が含まれています。
保険料率
厚生年金の保険料率は全国一律18.3%(2017年9月に固定)。労使折半のため、本人負担は9.15%です。標準報酬月額の上限は65万円で、それ以上の給与でも保険料は頭打ちになります。
標準報酬月額28万円の場合、本人負担は 280,000 × 9.15% = 月額25,620円 です。給料からの天引きの中で最大の項目になることがほとんどです。
3つの年金給付
| 種類 | 対象 | 概要 |
|---|---|---|
| 老齢厚生年金 | 65歳以降 | 現役時代の報酬と加入期間に応じた年金を終身受給 |
| 障害厚生年金 | 一定の障害状態 | 在職中の病気・ケガで障害が残った場合、障害等級に応じて支給 |
| 遺族厚生年金 | 被保険者の死亡時 | 配偶者・子などの遺族に、報酬比例部分の3/4相当を支給 |
厚生年金は「老後のため」だけではありません。若い年代でも、万が一の障害や死亡に備える保険としての機能があります。民間の生命保険・就業不能保険に入る前に、まず公的年金でどこまでカバーされるかを確認するのが合理的です。
雇用保険 — 失業だけじゃない意外な給付
「雇用保険=失業保険」と思っている人が多いですが、実はそれ以外にも医療職に役立つ給付が含まれています。
保険料率
2025年度の雇用保険料率は、一般の事業で本人負担0.55%、事業主負担0.95%です。標準報酬月額28万円なら、本人負担は月額約1,540円と、社会保険料の中ではもっとも小さい金額です。
主な給付
| 給付 | 内容 |
|---|---|
| 基本手当(失業給付) | 離職後、求職活動中に日額の50〜80%を所定日数分(90〜330日)支給 |
| 育児休業給付金 | 育休開始から180日は賃金の67%、以降は50%(免税) |
| 介護休業給付金 | 家族の介護のために休業した場合、賃金の67%を最大93日分 |
| 教育訓練給付金 | 厚労大臣指定の講座受講費用の20〜70%を支給(上限あり) |
教育訓練給付金は、認定看護師や専門看護師の教育課程にも使えるケースがあります。「専門実践教育訓練給付」に該当する講座なら、受講費用の最大70%(年間上限56万円)が支給されます。キャリアアップを考えている人は、厚労省の「教育訓練給付制度 検索システム」で対象講座を確認してみてください。
介護保険 — 40歳から始まる保険料
介護保険は、40歳になった月から保険料の天引きが始まります。「まだ関係ない」と思っていた人が、40歳の誕生月に給料明細を見て初めて気づくケースが多い保険です。
保険料率
協会けんぽの場合、介護保険料率は約1.59%(2025年度)。労使折半のため、本人負担は約0.795%です。標準報酬月額28万円なら、月額約2,226円が天引きされます。
対象年齢と保険料の変化
| 年齢 | 区分 | 介護保険料 |
|---|---|---|
| 39歳以下 | - | なし |
| 40〜64歳 | 第2号被保険者 | 健康保険料に上乗せして天引き |
| 65歳以上 | 第1号被保険者 | 年金から天引き(特別徴収) |
40歳になると、健康保険料に加えて介護保険料が上乗せされるため、手取りが数千円減ります。39歳と40歳では同じ額面でも手取りが変わるので、ライフプランの中で意識しておきましょう。
給料明細の読み方 — 具体例で確認(月給28万円の看護師)
ここまでの内容を、具体的な数字で確認しましょう。モデルケースとして、月給(標準報酬月額)28万円・32歳・扶養なしの常勤看護師を想定します。
| 天引き項目 | 料率(本人負担) | 月額(概算) |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 約5.0% | 約14,000円 |
| 厚生年金保険料 | 9.15% | 25,620円 |
| 雇用保険料 | 0.55% | 約1,540円 |
| 介護保険料 | (39歳以下は非該当) | 0円 |
| 社会保険料 合計 | 約41,160円 | |
額面28万円のうち、社会保険料だけで約41,000円が天引きされます。ここからさらに所得税・住民税が引かれるため、手取りは額面の約80%前後になります。
もしこの看護師が40歳になると、介護保険料(約2,226円)が加わり、社会保険料合計は約43,400円に増えます。
| 天引き項目 | 32歳 | 40歳 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 健康保険料 | 約14,000円 | 約14,000円 | 0円 |
| 厚生年金保険料 | 25,620円 | 25,620円 | 0円 |
| 雇用保険料 | 約1,540円 | 約1,540円 | 0円 |
| 介護保険料 | 0円 | 約2,226円 | +2,226円 |
| 合計 | 約41,160円 | 約43,386円 | +2,226円 |
社会保険料は「引かれるもの」と受け身に考えがちですが、中身を知れば「自分がどんな保障を持っているか」がわかります。民間保険に入りすぎていないか、逆に足りない保障はないかを判断する基礎になります。
自分の額面から手取りを計算 → 手取りシミュレーター
まとめ
- 社会保険は5制度(健康保険・厚生年金・雇用保険・介護保険・労災保険)の総称。給料から天引きされるのは労災を除く4つ
- 健康保険:保険料率は協会けんぽ全国平均約10%(本人約5%)。3割負担だけでなく、傷病手当金(日額の2/3×最長1年6か月)や高額療養費など手厚い給付がある
- 厚生年金:保険料率18.3%(本人9.15%)。老齢・障害・遺族の3つの年金で「老後だけでなく現役中のリスク」もカバー
- 雇用保険:本人負担0.55%と少額だが、失業給付・育児休業給付金・教育訓練給付と使い道は広い
- 介護保険:40歳から保険料の天引きが始まる(約1.59%)。手取りが数千円減ることを事前に把握しておく
- 月給28万円(32歳)の看護師の場合、社会保険料の合計は月額約41,000円。額面に対して約14.7%
社会保険は「取られるお金」ではなく、自分と家族を守る仕組みです。どんな保障があるかを把握しておけば、いざというときに申請漏れで損をすることがなくなります。
手取りの全体像は 手取りシミュレーター、税金を含めた天引きの詳細は 手取りはなぜ額面の8割なのか で確認できます。節税の手段をまとめて知りたい方は 医療職の節税対策すべて もご覧ください。産休・育休中の社会保険料免除については 産休・育休のお金ガイド で解説しています。
よくある質問
社会保険料は給料の何割くらい引かれますか?
本人負担はおおむね額面の15%前後が目安です。内訳は健康保険が約5%(協会けんぽ全国平均)、厚生年金が9.15%、雇用保険が0.55%で、月給28万円・39歳以下なら合計は月額約41,000円になります。40歳からはここに介護保険料が上乗せされます。自分の額面での金額は手取りシミュレーターで確認できます。
夜勤手当や残業代も社会保険料の計算に入りますか?
はい、夜勤手当や通勤手当なども含めた報酬をもとに標準報酬月額が決まり、そこに保険料率を掛けて保険料が計算されます。標準報酬月額は原則4〜6月の給与から決まるため、この時期に夜勤が多いと、その後1年間の社会保険料が高くなることがあります。詳しくは夜勤手当・当直手当の税金と社会保険で解説しています。
40歳になると給料から引かれるお金は何が増えますか?
介護保険料の天引きが、40歳になった月から始まります。本人負担は約0.8%(協会けんぽの場合)で、標準報酬月額28万円なら月額約2,200円、同じ額面でも手取りがその分減ります。なお65歳以上になると、原則として給料からではなく年金からの天引きに変わります。
家族を社会保険の扶養に入れられる条件は?
家族の年収(見込み)が130万円未満(60歳以上や障害のある方は180万円未満)で、主にあなたの収入で生計を維持していることが基本の目安です。扶養に入れれば、家族の分の健康保険料を追加で払うことなく3割負担などの給付を受けられます。税金の配偶者控除・扶養控除とは基準が別なので、配偶者控除と年収の壁や年収の壁・最適化ツールもあわせて確認してください。
傷病手当金はいつから、いくらもらえますか?
業務外の病気やケガで連続3日以上休んだ場合に、4日目から標準報酬日額の3分の2が、支給開始から通算で最長1年6か月支給されます。たとえば標準報酬月額28万円なら、1日あたり約6,220円が目安です。夜勤明けの体調不良などで長期休職するときの重要なセーフティネットなので、自分の場合の金額は傷病手当金シミュレーターで試算できます。
転職で空白期間があると社会保険はどうなりますか?
退職日の翌日に勤務先の健康保険・厚生年金の資格を失うため、空白期間が1日でもあれば任意継続・国民健康保険・家族の扶養のいずれかへの切り替えと、国民年金の手続きが自分で必要になります。手続きには期限があるものが多く(任意継続は退職日の翌日から20日以内など)、放置すると無保険の期間が生じかねません。3つの選択肢の保険料は退職後の健康保険シミュレーターで比較でき、手続きの流れは退職後の社会保険手続きで解説しています。
本記事は2026年(令和8年)時点の制度にもとづく一般的な情報です。健康保険料率は全国健康保険協会「都道府県毎の保険料額表」、厚生年金保険料率は厚生労働省「厚生年金保険の保険料」、雇用保険料率は厚生労働省「雇用保険料率について」、高額療養費の区分は全国健康保険協会「高額な医療費を支払ったとき」、介護保険料率は全国健康保険協会「介護保険料率について」によります。具体的な保険料額は標準報酬月額・都道府県・健保組合により異なります。個別の判断は勤務先の人事・総務部門や各保険者の公式情報をご確認ください。本記事は社会保険の助言ではありません。