資産形成

NISA枠を使い切った医療職の次の一手
iDeCo・課税口座をどう使うか

2026年6月19日 更新 / メディカルマネー編集部 / 監修:黒田律(内科医・産業医) / 中級者向け

新NISAの非課税枠は、年360万円・生涯1,800万円。入金力の高い医療職ほど、数年でこの上限に手が届きます。問題は、その「次」です。埋め切った資金を課税口座に流すか、iDeCoを使うか、判断を誤ると、せっかくの高い貯蓄力が税金で削られていきます。

この記事の軸は一貫しています。所得税率が高い医療職ほど、非課税と「課税の繰り延べ」の価値が大きいということです。高税率は普段は重荷ですが、置き場所を最適化すれば、その不利を逆に最大の武器に変えられます。優先順位を順番に整理します。

この記事の結論(先出し)

① まずNISAを本当に埋めたか確認(つみたて枠+成長枠=1,800万円)。② 次はiDeCo・企業型DCの非課税枠(掛金が所得控除になり、高税率ほど得)。③ それでも余れば課税口座。課税口座では無配・低配当のインデックスで含み益を繰り延べるのが税務上有利。高配当株は課税ドラッグで不利になります。

その1:そもそも「使い切った」を疑う

「次の一手」の前に、本当にNISAを埋め切っているかを確認します。ここを誤解したまま課税口座へ動くと、まだ使える非課税枠を取りこぼします。

新NISAの枠は二層構造

新NISAの枠は、年間と生涯の二段階で決まっています。

枠の種類金額補足
年間投資枠合計360万円/年つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円
生涯非課税保有限度額1,800万円(簿価ベース)つみたて枠だけなら1,800万円全部使える
うち成長投資枠の上限1,200万円まで成長枠は1,200万円が内枠の上限

ここで多いのが、「成長投資枠の1,200万円を埋めた=NISA終了」という誤読です。成長枠を満タンにしても、つみたて投資枠側には少なくとも600万円が残っています。年単位でも、つみたて枠の年120万円はまだ買えます。「成長枠が終わった」と早合点して年20.315%課税の課税口座へ動かすと、本来まだ非課税で投資できる600万円を素通りすることになります。

💡2段階で考える

第1段階:成長枠1,200万円は埋めたが、つみたて枠が残っている → まず残りのNISA枠を埋める。
第2段階:つみたて+成長で1,800万円すべて埋めた → ここで初めて「NISAの外」の話になります。以下は第2段階の人向けです。

NISAと課税口座の基本的な違いがあやふやな場合は、NISA口座と特定口座の違いを先に押さえておくと、この後の判断がはっきりします。

その2:iDeCo・企業型DCの非課税枠を使い切る

1,800万円を埋め切ったら、次の非課税箱はiDeCo(個人型確定拠出年金)と企業型DCです。NISAが「運用益が非課税」なのに対し、iDeCoには掛金が全額所得控除という、NISAにはない強みがあります。これが高所得の医療職に効きます。

所得控除は「税率に比例する」確定リターン

掛金の所得控除による節税額は、シンプルな式で出ます。

💡節税額の出し方

節税額 = 年間掛金 ×(所得税率 + 住民税率10%)

住民税は一律10%。これに自分の所得税率が乗るので、税率が高い人ほど、同じ掛金でも戻ってくる額が大きくなります。具体的に、年27.6万円(月2.3万円)を拠出したケースで比べます。

課税所得の帯所得税+住民税年27.6万円拠出の節税額
330万〜695万円30%(20+10)約8.3万円/年
695万〜900万円33%(23+10)約9.1万円/年
900万〜1,800万円43%(33+10)約11.9万円/年

※課税所得の帯と税率は所得税の速算表に基づく目安。実際の税率は各人の所得・控除で変わります。出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm

勤務医など課税所得900万円超の帯にいる人なら、拠出額の4割超が初年度から戻る計算です。これは市場が何%動こうと関係なく確定する「実質割引」であり、運用リターンとは独立して効きます。高税率は普段は重荷ですが、iDeCoの所得控除に関しては、税率が高いことがそのまま得の大きさになります。

掛金の上限は職種・企業年金で変わる(改正に注意)

iDeCoの拠出限度額は、自営業か会社員か、勤務先に企業年金(企業型DC・確定給付年金)があるかで変わります。開業医・フリーランス医(第1号被保険者)は月6.8万円、企業年金のない勤務医・看護師など(第2号被保険者)は月2.3万円が長く使われてきた水準です。ただし2026年に拠出限度額を引き上げる制度改正が予定されており、上限額や適用時期は流動的です。自分が拠出できる額は必ずiDeCo公式と勤務先で確認してください。詳しくは企業型DC・iDeCoの上限改正ガイドで整理しています。

iDeCoの2つの制約はセットで評価

①原則60歳まで引き出せない。教育費・住宅頭金・転職時の生活費など「60歳より手前で必要な資金」は入れない。
②iDeCoは「非課税」ではなく「課税の繰り延べ」。受取時に課税されますが、一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除が使えます。ただし退職金が多い医師などは控除を超えた分に課税が生じうるため、iDeCoの出口戦略で受け取り方を先に確認しておくのが安全です。

NISAとiDeCoをどう組み合わせ、手取りからいくら積み立てるかの全体設計は、医療職のNISA・iDeCo入門で具体的に扱っています。

その3:それでも余るなら課税口座(特定口座)

NISA1,800万円もiDeCo・企業型DCも埋め切って、なお余裕がある——医療職では珍しくありません。ここで初めて課税口座(特定口座)の出番です。課税口座は運用益に20.315%かかりますが、何を置くかで税負担は大きく変わります。

無配・低配当のインデックスで「繰り延べ」を効かせる

株式のリターンには「配当」と「値上がり益(含み益)」の2種類があり、課税のタイミングが違います。含み益は、売らないかぎり課税されません。利益が出ていても、保有を続ける間は税金を払わず丸ごと再投資に回せる——これが課税の繰り延べです。

一方、配当は受け取るたびに20.315%が源泉徴収されます。再投資に回す前に税が引かれるので、複利の土台がそのぶん削られる。これが課税ドラッグです。つまり課税口座では、配当を出さずに内部で再投資する無配・低配当のインデックス(無分配型の投資信託など)のほうが、繰り延べが最大限効いて税務上有利になります。

高税率ほど繰り延べが効く

繰り延べの価値は「先送りした税額 × その間の運用」で決まります。税率が高いほど先送りできる税が大きく、利益が伸びるほど効果も増える。高所得の医療職ほど、課税口座では繰り延べを効かせる設計の価値が大きいのです。

逆に高配当株は、受け取るたびに課税される構造上、繰り延べが効きません。なぜ高所得ほど高配当が不利になるのか、総合課税・配当控除まで含めた詳しい理由は高配当株の課税ドラッグで数字で解説しています。NISA枠の外=課税口座でこそ、この差がそのまま手取りに響きます。

アセットロケーション:どの資産をどの口座に置くか

枠を使い切った人ほど効くのが、アセットロケーション(資産の置き場所)の考え方です。「何をどれだけ持つか」が資産配分なら、「それをどの口座に置くか」がアセットロケーション。同じポートフォリオでも配置で税引後リターンが変わります。原則は1つ。

💡原則

期待リターンの高い資産(株式インデックス)ほど、非課税口座(NISA・iDeCo)に寄せる。期待リターンの低い資産(債券・現金的なもの)や入りきらない分を、課税口座に回す。

理由は、非課税の恩恵が「運用益の大きさ」に比例するからです。最も大きく増える見込みの資産を非課税の箱に入れれば、免除される税額も最大になります。ただし現実には、NISAは制度上インデックス投信や上場株式が中心で債券単独商品の選択肢は限られるなど、教科書どおりに配置できない制約もあります。資産配分全体の組み方はアセットアロケーション入門もあわせてどうぞ。

その4:コア・サテライトと出口を意識する

置き場所が決まったら、中身の組み立てと取り崩しに軽く触れておきます。

コア・サテライトの考え方

資産の大半(コア)を低コストの全世界株・S&P500などのインデックスで固め、非課税枠を優先的にコアで埋めるのが基本です。個別株やテーマ型など趣味的・攻めの部分(サテライト)は全体の1〜2割にとどめ、課税口座側に置く。こうすると、最も増える土台が非課税で守られ、遊びの部分が増えても税効率の悪化が限定されます。

出口・取り崩しの順番

将来取り崩すときは、課税口座から先に、非課税口座(NISA)は最後まで残すのが税効率の基本です。NISAは保有が続くほど非課税の運用が伸びるため、最後まで温存するほど得。iDeCoは受取時の控除(退職所得控除・公的年金等控除)を踏まえ、退職金の受け取り時期との重なりに注意して順番を設計します。退職金の出口設計はiDeCoの出口戦略が詳しいです。

現金(生活防衛資金)を投資に回しきらない

枠を埋めることに集中するあまり、生活防衛資金や近い将来のライフイベント原資まで投資に回していないか点検を。暴落時に取り崩さざるを得ない状況を避ける現金は、リターンを生まなくても役割があります。

まとめ:高税率ほど非課税・繰り延べの価値が大きい

  • まずNISAを本当に埋めたか確認(つみたて枠+成長枠=1,800万円)。成長枠1,200万円だけで「終了」と誤読しない。
  • 次はiDeCo・企業型DC。掛金の所得控除は税率に比例する確定リターンで、高所得の医療職ほど得。ただし60歳まで引き出せず受取時課税はセットで評価。
  • それでも余れば課税口座。無配・低配当のインデックスで含み益の繰り延べを効かせる。高配当株は課税ドラッグで不利。
  • 非課税枠には期待リターンの高い資産を寄せ、コアを非課税で固める。取り崩しは課税口座から先、NISAは最後まで残す。

共通する軸は1つ。所得税率が高い医療職ほど、非課税と繰り延べが生む差は大きいということです。枠を使い切ったのは入金力が高い証拠。その力を税で削られないよう、置き場所を最適化しながら入金を止めないことが、いちばん効く「次の一手」です。

NISA・iDeCo 積立シミュレーター毎月の積立額と想定利回りから、非課税で増える資産額を試算。iDeCoの所得控除の効果も確認できます。
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出典:金融庁「NISAを知る(制度の概要)」 https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.html / 国税庁「No.2260 所得税の税率」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm / 国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除(iDeCo掛金の所得控除)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1135.htm / iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会) https://www.ideco-koushiki.jp/guide/

監修・運営:黒田 律(くろだ りつ)

内科医・産業医(医師8年目)/投資家

地方の病院で内科診療を続けながら、産業医として「働く人の心身とお金」に向き合う医師。記事は税・制度などを公的な一次情報で確認し、医療・制度面を監修しています。運営者・編集方針について →